8/4バンクーバー3日目
[2002年カナダ旅行記目次]
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*8/4バンクーバー3日目(曇り)*

 朝、目を覚ますと外は曇り空であった。昨日夜遅くまでチェスをやっていたカップルは何故か一つのベッドに仰向けに並びながら寝ていた。別にHなどはしてないようだが、何も一つのベッドで寝る事もないのになと考えてしまった。彼らを起こさないように静かに起き上がり、トイレと歯磨きを兼ねて部屋の外にでようとしたら、カップルのどちらかが「ぶぉっ!」と豪快な屁をこきやがった。

 タバコを切らしていたので、外にでてタバコを売ってる店を探しに出かけることにした。ガスタウンの東のはずれに、グローサリーストアを見かけた。レジの後ろにタバコが置いてあるのを見つけたので、迷わず入った。ミネラルウォーターとキャメルライトを2箱購入した。その店をでるやいなやすぐにタバコを吸った。朝の一服は美味い。周辺の壁にはストリートギャングの縄張りを現してるのかわからないがスプレーペンキでの落書きが多く、なんだか雰囲気が悪かった。この辺はあまり夜は出歩かないようにしておこうと思った。

 そのまま、朝食をとりに宿の隣のカフェに行った。2泊泊るつもりだったので、2.50ドル分のカードも2枚受け取っていた。昨日は店を間違えたのでそのカードがつかえなかったが今日は有効的に使用することにした。メニューは2エッグ、トースト、ポテト、ソーセージのごくオーソドックすなメニューだ。勿論タマゴは両面焼きで注文をした。コーヒーはセルフサービスとなっており、自分で好き勝手にできる仕組みであった。朝飯を食べながら、今日からの宿をどうするか考えた。とりあえず、今泊ってる宿は今日がチェックアウトの日だ。また重い荷物を背負って街中を宿を探しながらあるくのは疲れるので、もう一泊する事に決めた。

 朝食を済ませた後、宿の前でまたタバコを吸った。宿の前で犬がつながれてたので、暇つぶしに頭をなでながら遊ぶことにした。すずめやはともたくさん目の前を歩いていた。色が若干日本のとは違うことがわかった。犬と戯れていたら、同部屋のカップルがでてきた。荷物を背負ってるから、どうやらチェックアウトをしたようだ。

 フロントに行き、もう一日延泊ができるかどうか尋ねたら、問題なくすんなりと受理された。チェックで延泊料金を支払った。幸い部屋は同じでいいとの事。

 時間が9:00をとっくに過ぎたので、そろそろ出かけようと部屋に戻ろうとすると、フロントの横にあるドアの所で東洋人の女性がドアを開けられあず、一生懸命カギを入れながらガチャガチャやっていた。彼女は俺の方をみると、
「すいません、ドアが開かないんだけど。」と言ってきた。俺は彼女のカギを受け取り、
「この宿は3つのカギがあるからね。一つはここ、もう一つはフロアーのカギ、最後は自分の部屋のカギね。」と説明しながら、一つ一つのカギを鍵穴にいれて確かめながら、開けてやった。確かに防犯上のため、カギが多いのは仕方がないが、あんまり多いのも何だかな〜と考えてしまった。
「これが、ここのカギね。覚えておいて。」
彼女にカギを返して、俺はスタコラさっさと自分の部屋に戻った。荷物から、ガイドブックとかカメラを持ち出し、デイパックに詰め込んだ。ふと気づくと一昨日から部屋の中央でずっと飛び続けていたハエがいなくなっていた。

 今日の予定はグランビルアイランドに行くこと。ここを選んだのはこれといって理由はない。街中をブラブラしても面白くないので、ちょっとだけ遠出をしてみようと思ったからだ。宿から、歩いてグランビル通りにでた。ここからバスに乗ってグランビルアイランドに行けばいいとガイドブックに書いてあったのでその通りに実行した。バスにはナンバーと行き先が書いてある。バス停で待ってると大きく「Granvill」と書かれたバスがやってきたので、それに乗り込むことにした。念のためバスの運転手に「グランビルアイランドまで行きますか?」と尋ねてから乗ることにした。そうでもしておかないと、この間のように間違えてわけのわからん所に行ってしまうのを防ぐ為だ。

 バスは空いており、余裕で席に座ることができた。しばらくすると、バスは大きなグランビル橋を走った。この下にグランビルアイランドがある。橋を渡りきると、バスは右折をして、橋の下にたどり着いた。バスの乗客も皆ほとんどここで降りていった。一応運転手に「ここがグランビルアイランド?」と聞くと「そうだ。」というので俺も降りることにした。しかし、降りたのはいいが、グランビルアイランドにはどうやっていったらいいのかわからないので、近くにいた中年の夫婦に道を聞いた。幸い、この夫婦はグランビルアイランドに立ち寄ってこれから帰るというので、グランビルアイランドの観光用地図を俺にくれてよこした。これならすぐわかる。その夫妻にお礼を言って、グランビルアイランドを目指した。


グランビルアイランドへの入り口。コメディフェスティバルというイベントをやってるそうだ。


 グランビルアイランドは、1915年にフォルスクリークに産業目的で作られた8ヘクタール程の埋立地だ。産業目的のため工場がいくつも建てられたが、その後ゴーストタウン化となり、1970年代に再開発で蘇ったという。以前の工場跡の名残が今でも残されている。現在は、パブリックマーケット、レストラン、商店、ギャラリー、劇場、マリーナ、ビール醸造所、など様々な店が立ち並び、また大道芸人などのパフォーマンスなどで活気ついてる所だ。案の定、今日も「コメディフェスティバル」の期間中をお知らせする看板が立てられていた。


グランビルアイランドのとらる一角。車の往来が結構激しい。


 島に入り、まずはインフォメーションセンターに行った。ここには島内の建物に関する地図が置いてあった。先程道を聞いた人に頂いたものと同じであったが、新しいのをついでに一枚もらっておくことにした。そんでもって島内の概要をつかむ為、適当にぶらぶらと歩き周った。まあ、お土産屋さんがあったり、ロブスターの卸売り場があったり、マリンスポーツ系の店があったり、何となくアウトレットモールと言った印象だ。買い物目当てでくれば、それなりに楽しめるが、そうでないとあまり面白くない場所であった。とりあえず、適当に土産屋に立ち寄ったり、アウトドアショップに入って何かいいものがないか見渡したが、これといって気に入ったものがなかったので、単なるウィンドーショッピングで終わった。なんだか、あまり面白くないので暇でしょうがない。暇になると楽しみといったら食べることしかないので、時間も昼飯時なので飯屋を探すことにした。パブリックマーケット内に様々な料理の店が沢山あったので、その辺を2周ほど見渡し何を食べるか考えた。スシとかもあったが、中華にする事に決めた。惣菜屋の感じのその店で、チャーハン、チンジャオロース、肉団子、餃子を選択した。最初は指でこれ、これと指し、最後の一品をどれにするか迷ったが、思わず「ギョーザ」と日本語でいったら、何故か通じてしまった。中国語では確か「チャオズ」といったような気がしたが...。選んだ料理はほか弁のような容器に入れてくれ、弁当として外で食うことができる。ブラスチックのフォークとスプーンがついてきたが、あえて割り箸を頼んだ。中にもテーブルとイスがあったがどこも満席だったので、あきらめた。自販機でダイエットコークを買い、そのまま外にでたら小雨が降り始めて来た。でも気にせず、そのままガツガツむしゃむしゃと食いまくった。目の前には、人間のおこぼれをもらおうと、かもめがとぼとぼ歩いていた。


グランビルアイランドから見た、バンクーバーのダウンタウンの風景。ホテルやマンショやらの高層ビルが立ち並んでいる。


 結構ボリュームがあり食い応えがあったが、全部平らげた。食いすぎでなんだか動けなくなってしまったので、しばらく景色を眺めることにした。対岸にはホテルかマンションらしき高層建築物が沢山ならんでて、水面には沢山の船が浮かび、海上タクシーという小さな船も動いていた。空はどんよりと曇っていて、小雨がぱらついてり止んだりの繰り返しであった。天気がよくないと精神的にも暗くなるのか、なんだかここにいるのが嫌になってきた。
「はぁ、つまらん。この後何して過ごそうかな?」といろいろと考え込んだ。

 ここにいてもつまらんので、ダウンタウンに戻ることにした。途中、沢山の人だかりのする一角があったので、「何だろう?」と見てみると太っちょの若者がパフォーマンスを行っていた。どうもここが、コメディフェスティバルの会場のようだ。若者は時々観客を自分のパフォーマンスに参加をさせ、いろいろと笑いを取っていて面白い。英語で説明をしているが、彼の動作から何をいわんばかりなのか用意に理解が出来たので、英語をあまり理解できない俺でも楽しく見ることができた。特に面白かったのが、彼が観客の中から一人の女性を選びだした。その女性を自分の傍らに立たせ、なにやら指示をだしている。
「きょうつけ!」
「両手を後ろに組んで!」
「上体を前に45度折り曲げて、はいそのままあごを前にだして!」というと女性は何が起こるのかわからないまま、いわれた通りに実行していた。
「その状態で体を震わせて。」
最後の言葉で彼が何をやろうとしていたのか判明した。女性が先程の体制で、体を震わせると、彼女の豊満な胸がゆっさゆっさと揺れ出した。場内は爆笑。気づいた女性もちょっと恥じらいをみせたが、拒むことなくそのまま続けてた所もなかなかノリが良くていい。

 彼のパフォーマンスは早口でいろいろまくし立てていたが、どうもマジックを披露しているらしく、序盤はだれもがわかるような、おちょくり手品からだんだん本格的にエスカレートし、最終的には種も仕掛けもないことを証明する為に観客を何人もよんで、逐一チェックをさせ、自分の体を5m以上ある鎖でぐるぐる巻きにしてしまった。最後は大きな南京錠を掛け、そのまま足から首まですっぽり覆われる大きな袋に覆われた。どうやらこの鎖でがんじがらめにされたのを1分以内で解き放つらしい事を宣言した。観客も最後の10秒で一斉にカウントダウンを始め、そして彼は見事に鎖から開放され、袋を脱いだ。すると、解き放たれたというイメージから彼の服装がバレエの白鳥の湖を演じる格好に変わっており両手をふわふわとさせながら、場内をまわった。観客は彼の見事なる脱出とその変貌振りのおかしさに爆笑と拍手の喝采が巻き起こった。俺も、彼の演技力と話術に感動し、拍手と声援を送った。なかなか客を引き寄せるコツを心得てると思った。言葉が100%理解が出来ればもっと面白いだろうと考えたが、理解ができなくても十分楽しませるそのパフォーマンスはまさに、賞賛を与えたいくらいである。

 パフォーマンス終了後、客が一斉にチップを渡し始めた。どうやらこの演技を見て、自分が納得した金額を差し出せばいいらしい。若者は演技で使った大きな袋を金の受け取り袋にしていて、みんなそれに放り込んでいた。俺も、少しばかり渡そうとその袋に放り込みにいこうとしたが、カナダドルの現金の持ち合わせが少なかったので、彼に
「米ドルでもいいか?」と訪ねると
「米ドル?大歓迎!」と言われたので、そのまま放り込んだ。

 まだまだ次にも別のパフォーマンスが控えてるようだったので見てみようと思った。10分位の休憩のあと次のパフォーマーがやってきた。先程の若者とは対照的に黒っぽいスーツを着たおっさんが登場してきた。なんだかこのおっさん、そういうキャラなのかもしれないが、ぼそぼそとしゃべるので覇気がない。
「え〜、みなさんまずお願いがあります。(ボソボソ...)私が演技をしている間は(ボソボソ...)、どうかビデオの撮影やカメラはご遠慮願います(ボソボソ...)
一応マイクを通してあるのだが...。ちょうど俺がそのおっさんをカメラを取ろうとしたら、この説明がありおっさんと目が合ってしまった。おっさんは、俺に「頼む」とボソボソとつぶやいた。俺も思わずすまんすまんといいカメラを収めた。ボソボソしゃべるおっさんのパフォーマンスはトランプを使った手品であった。最初みんなに10枚のトランプを見せ、それを机の上にある帽子に一枚一枚数えながら、捨てていくのだが数え終わると何故か数枚少なくなる手品であった。なんだか見ててもつまらないので、おっさんには悪いがその場を離れた。

 そういえば、ここには地ビールの醸造所があるとガイドブックにかいてあったのを思い出し、そこで昼真っからビールを飲むことにした。「グランビル・アイランド・ブリューイング」ここはカナダで最初のミニ醸造所。中には銀色の大きなタンクが置いてあり、更に有料で試飲付きのツアーも行ってるそうだ。とりあえず、勝手にテーブルに座り、地ビールとはどんなもんかと一本注文した。昼間のせいか、中はガラガラで客があまりいなかった。味は普通。美味くもまずくもない。昼飯の中華をたらふく食いすぎたので食後の炭酸系の飲み物はちょっと辛かった。時間を掛けてゆっくり飲み干して、ここブランビルアイランドを去ることにした。

 バスで再び、グランビルストリートとロブソンストリートの交差点近くに戻った。まだまだ時間があるので、歩いてスタンレーパークまで行ってしまった。スタンレーパークはダウンタウンの北西に位置し、バラード入り江に突き出た半島の先端にある。対岸にはノースバンクーバーの小高い丘陵がみえる。ここには94年に一度きたことがあった。あの時は近くでレンタサイクルを借り、公園内を一周したことがあった。なので、今回は公園内の内部を探索することに決めた。公園の入り口にある案内所で地図をもらい、それをたよりに歩くことにした。スタンレーパークは地図でみるとほぼダウンタウンと同じ面積をもつ広さだ。公園全体は森に囲まれており、水族館や動物園、海岸沿いには一部海水浴場もある。サイクリングコースやインラインスケートのコースも整備されている。その他にも有料だが、馬車で公園内のハイライトを周るツアーなどもある。地図を見ていると内部には様々なトレイルコースがあり、とてもじゃないが、半日かそこらで全部歩くのは不可能なので、絞り込む事にした。地図を広げざっとみると、公園内内部にビーバーレイクというのがあるので、とりあえずそこを目指して、行くことに決めた。

 まずはバンクーバー水族館を目指した。ちなみにここも有料だ。あまり興味がないので、目の前を通過しただけ。トレイルコースには時折注意事項がかかれており、よく読んでみると、公園内にはコヨーテも生息してるから注意するようにと書かれていた。その後、子供動物農場を横切り、適当に休憩をしながらビーバーレイクまで進んだ。


ビーバーレイク。水面はほとんど水草でびっしりと覆われていました。


 ビーバーレイクに到着をすると、なんてことはないただの池であった。水草がうっそうと生い茂り、水面がほとんどみえない。最初は名前の如くビーバーが生息してるのではと思ったが、そんな動物の気配すらない寂しい池であった。ここをぐるっと一周し、バラード入江側の海岸線にでた。あとは海岸線をのんびりあるき、トーテムポールのある所にでて、そのまま海岸線沿いを歩き、もと来た場所に到着をした。2時間近く歩くととてつもなく疲れてしまい、しばらく休憩することにした。ここは一度来たことがあっただけに特に印象もなく、ただ何となく歩きとおして時間を費やしただけに感じてしまった。


スタンレーパークの海岸沿いで休憩をしてたら、目の前に馬鹿でかいフェリーが通ってた。左にある橋にぶつかってしまうのでは?と思うような感じであった。

スタンレーパークにあるトーテム・ポール。カナダの太平洋岸に住んでいるそれぞれのインディアンの部族がレッドシダーという大木で作った物が建てられている。

スタンレーパークから見た、ダウンタウンの景色。

スタンレーパークにいた鳥。名前はわかりません。人馴れしているのか、近くによっても中々逃げませんでした。


 ロブソン通りを東へまっすぐ歩きながら、宿に戻ることにした。歩きながら考えていたが、どうもバンクーバーはあまり面白くない。俺の過ごし方にも問題があるのだけれども。一度来たことがあるから、あまり新鮮さを感じず、飽きてしまっていたのかもしれない。初めて来た時は、賞味半日位しかいなかったから、「次はじっくりと訪れたい」という印象をもっていたのだけれども、なんだかそんな気持ちも色あせてしまっていたようだ。

 宿に戻る途中、腹が減ってきたのでどこで何を食うか考えた。たまたま街の一角に、赤い布地に白文字で「ラーメン」と日本語で書かれたのぼりを立ててる店を見つけた。
「おっ、こんなところにラーメン屋があるなんて。」とそのまま吸い込まれるように店に入った。店の中は日本でよく見かけるごく普通のラーメン屋の内装であった。ラーメンのほか、定食も食べることができる。メニューに「ここはジャパニーズ中華レストラン」と記載されていた。店員も日本人、客も結構日本人が占めていた。ウェイトレスの姉ちゃんに、チンジャオロース定食とウーロン茶を注文した。量は北米大陸特有のてんこ盛ではなく、日本と同じくらいの量であった。味はなかなか美味い。むしゃむしゃと食べてると、俺の隣に座っていた、中年のサラリーマン風のおっさんが、店員に文句を言い始めた。どうも、席に座ってから全然、オーダーすらとりにこない事に腹を立ててたようだ。そんな事を尻目に俺はさっさと平らげ、店をでて宿に戻った。

 宿の部屋に戻ると、部屋は相変わらずがらんとしていて、誰も客がいないようであった。今日は一日歩きまわったので、ヘトヘトに疲れベッドの上で仮眠をとった、夜再び、目が覚めシャワーを浴びた。再び部屋に戻って、明日の宿をどうするか考えた。今泊ってる宿も、安くていいのだが、どうも居心地が悪い。ロブソン通りまでに出るのに歩いて30分というのも何だか応えてきた。こんな感情がでてくるのはどうやら、旅疲れが溜まってきたようだ。明後日はいよいよ、日本に向けての帰国なので、バンクーバーにいられるのは実質明日限りなので最終日位は一人でのんびり過ごしたくなってきたので、他の宿を探すことにした。ガイドブックとにらめっこすると、ロブソン通りに近い、「YMCA」がベストであることがわかった。早速公衆電話に行き、明日部屋が空いてるか確認をした。部屋はシングル、トイレとシャワーは共同でいい。テレビもいらん。このような要求をいい、簡単にゲットできた。料金も税込みで49.50ドル。予約ナンバーをガイドブックにそのまま書き込んで終了した。これで、ドミトリーとはおさらばだ。明日の宿の心配ネタはもうなくなったし部屋にいてもしょうがないので、またパブに行き一人寂しく飲むことにした。

 パブは相変わらずエネルギッシュだ。いつも瓶ビールばかりなので、たまにはジョッキで飲みたくなったので試しに挑戦してみることにした。大抵ビールの銘柄をいうと、瓶ビールがでてくる。カウンターにジョッキに注ぐサーバーのレバーが沢山ならんでたので、それを指をさして一つくれといったら、簡単にジョッキのビールが出てきた。

 席がどこも満杯で空いてないので、タバコを吸いながら立ち飲みをした。俺のそばにいた若者が昨日から禁煙をしてるらしく俺の吸うタバコを見ながら、
「昨日から禁煙をはじめたんだけど、タバコの煙をかぐと吸いたくて頭が割れそうになる。」と両手をこめかみに当てたジェスチャーをしながらそう言った。
「ははは、そうか頑張れ。」
確かに禁煙中のタバコの煙はものすごく辛い。まるでダイエット中に美味そうな料理があって、それをお預けくらってるような感じに近い。かわいそうだから、俺はその場を離れてあげることにした。考えてみれば、ここで酒を飲みながら会話を出来たのは、これがはじめてだった。ふと思ったが、昼間バンクーバーがなんだか面白くないといったのは、バンクーバーが原因でなく人との会話をしてなくてつまらないといったのが正解かもしれない。ウォータートン、ホワイトホース、ジャスパー、カナディアンロッキー、トフィーノ、そしてグレイハウンドの移動中では大抵の人と会話ができ、それを楽しめた。しかし、バンクーバーではほとんど人と会話をしていない。恐らく人寂しさが旅の面白みを半減させていたように思えた。とはいっても、ここはカナダ。俺の英語力では、ペラペラと日常会話が出来る能力はない。まあ、仕方ないこれも運だ。楽しい時もあれば、寂しい時もある。このメリハリが総合的に旅を面白くさせているのであろう。

 何故か今回の旅では、タバコをきっかけに話し掛けられるパターンが多い。先程の禁煙中の若者ともそうであった。ほんの2言しかしてないが、人寂しい時の心理状態では、非常に印象深く感じてしまうので今でもはっきりと脳裏に焼きついている。次に話し掛けられたが、ジョン・レノンに似た、若者がタバコの火を貸してくれと声を掛けられた。俺がライターを差し出し火をつけると火力の調整がマックスになっていたため、炎がボボボッと勢いよくでて、彼の眉間のところまでとどいてしまった。彼はびっくりして、後ろにひっくり帰り、おでこに手を当ててた。
「すっ、すまん。大丈夫か?」
「いや、大丈夫大丈夫。気にするな。」
火力をミニマムにしてもう一度火を差し出すと、彼はこわごわと首を出したり引っ込めたりしながら、タバコにようやく火をつけた。幸いやけどはしなかったのでよかった。ライターの火力調整は気をつけなくてはならないと思った。たまに俺も火の調整を間違えて、前髪や鼻毛を焼いてしまったことがしばしばあった。

 ビールは飽きてきたので、ジャスパーのパブで飲んだサンブーカを注文した。あの時と同じように小さなコップに注がれて、それを一気飲みをし、「ぷはー」と言いながらすぐさまコップを返した。するとアルコール度数が高いのか、頭がくらくらしてきた酔いが急にまわってきてしまった。

 ちょっくら、酔い冷ましに外にでた。しばらくすると俺の前に見覚えのある女性が歩いてきた。朝、宿のカギがわからず困ってた女性だ。彼女は俺のことを覚えていたらしく
「ハイ!」と挨拶してきた。俺も酔っ払いながら、
「おー、君か。カギは覚えたかい?」と返した。彼女は良く見ると恋人らしき男と一緒に歩いていた。恋人の男性はそんなやりとりを見ながら、
「誰なんだあいつは?」と彼女に話しながら、二人はそのまま歩き去っていった。
「いいな〜、恋人がいて。あ〜、一人というのは気楽でいいときもあるが、寂しい時もあり辛いな〜。」と一人で愚痴をこぼしてしまった。酒の酔いも手伝ってか、そんなことを考えているとますます寂しくなってしまった。ヘベレケ状態はすぐには治まらない。タバコを吸うと余計に酔いが回っているように感じてきた。

 外でしばらくいると、今度は物乞いが俺の所にやってきた。女性の物乞いだ。なにやら話を聞いてると、宿代が足りなくて焦っているらしい。
「ねぇ、2ドル恵んでくれない?2ドルでいいの。お願い。」
さっきまでは寂しい感情でいっぱいだったが、この女に話し掛けられてきたら、なんだか段々腹がたってきてしまった。
「(知らねぇよ、そんな事。何が2ドルだうるせぇな。)」と思いながら、500円玉を見せた。
「 ほら500円なら、あるぞ。日本円ね。」
「そんなのいらないわ。カナダドルよ。お願い。」
バカなやつめ。どこかで両替すれば、5ドル相当になるのに。いい加減相手にするのも疲れてきたから、
「英語わかりませ〜ん。」の反撃に俺はでた。相手は英語で必死に訴えてくる。俺は日本語で返答をする。当然相手は俺が何をいってるのかわからない。彼女はその内諦めて、闇夜の街にどこか消えてしまった。

 30分位たって、ようやく酔いが落ち着いてきたので、再びパブにもどって飲み直すことにした。ビールはもう貼らあ膨れるので、バーボンとジンジャーエール割りを頼んだ。カウンターがようやく開いたのでそこに座ることができた。ふと斜め横のカウンターをみると、カギで困ってた女性が彼氏と楽しそうに、飲んでいる姿がみえた。そんな姿をみるとまた寂しさが復活してしまった。考えてみるとバンクーバーで会話をするといったら、「タバコくれ。」「2ドルくれ」といった類がほとんどであった。今ここでカウンターに座っていても相変わらずタバコくれくれ君たちがハエのように俺のところにやってくる。まあ、普段からそういう街なんだろうけど、俺にはどうしても受け入れることができなかった。段々、ここにいるのに嫌気がさしてきたので部屋に戻ることにした。

 寝る前に選択をしようと、ランドリーに言ったが洗剤が切れていることに気づき諦めた。ちっ、心情的に落ち込んでると、どうもツキも悪い。

 明日は、どこも観光をせずゆっくり土産物を買うことに専念し、美味いものでもたらふく食おう。それしか、ここで過ごす楽しみしかない。何だかむなしいな...

(つづく...)

 

 

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