*7/29カナディアンロッキードライブ4(晴れ後時々曇り&にわか雪)*
ジャンクションに出て再び93号線であるアイスフィールドパークウェイに入った。するとすぐにヒッチハイカーがいるのに気づいた。ヒッチハイカーは男女のカップルで、女性が立って親指をあげ、男性は1960年代のヒッピーを思わせるような出で立ちで地べたに座りながら何故かギターを弾いていた。今日の予定はジャスパーに戻るだけなので、今までの旅で世話になった恩返しの意味で彼らを乗せてあげようと考えた。車のスピードが出てたので彼らの前で停車をする事ができず、ちょっと過ぎてから停車をしたのだけれども彼らは俺が車を停めた事に気づかず、ひたすら車を待ってるそぶりであった。2〜3分程停車したけど、全く気づかないので俺は再び車を走らせる事にした。するとまたすぐに別のヒッチハイカーが目に入った。これまたカップルのハイカーであった。今度はゆっくり走っていたので彼らの手前で車を停めることができた。彼らの傍らに車を止め、助手席へ体を傾け手動ハンドルで窓をあけた。
「どこに行きたいの?」
「ジャスパーまで行く?」
「ああ、これからジャスパーに戻るところだよ。載っていいよ。」
と彼らを車に乗せようとしたら、後部座席が余りにも寝袋とかちらかってたので「ちょっと待ってくれ」と言って急いで車内を片付けた。考えてみたら、キャンプ場を出る時、面倒くさいから車内に放り込んだままであったのだ。彼らの荷物は俺と同じようにバックパックであった。しかし、俺とは対照的にかなりの軽装で40リットル位の大きさであった。トランクに入れようとしたら、ばーべQの串が入ってるから気をつけるようにといわれた。俺の荷物がかなりトランクを占領していたので、彼らの荷物は全部入りきらず、一つは後部座席に置くことにした。俺の荷物も後部座席に置いてあるから、かなり狭苦しいスペースになってしまった。
彼らが車内に乗り込むと、俺から自己紹介をした。
「どうも、B−Yといいます。日本からやってきました。1ヶ月程カナダを旅しています。2日前からこのレンタカーでこのあたりを旅しています。」
その後彼らも自己紹介をしてきた。男性はニック、女性はクレアといった。アイルランドからやってきて、5月にカナダに来てずっと旅してるそうだ。帰国予定は9月の中旬で、これからプリンス・ルパートに向かって船でアラスカへ渡る予定だそうだ。俺は4ヶ月近く旅をするのに先程のあまりにも軽装な荷物姿に内心驚いた。恐らく必要最低限のものしか持ってきてないのだろう。俺の重装備とはえらい対照的だと思った。人にもよるかもしれないが、旅にでるとつい心配性になって結構あれこれ荷物に詰め込む傾向がある。俺なんかまさにその例だ。自分なりにかなり荷物を抑えたつもりではあったが、考えてみると結構無駄なものが多かった。荷物の中で衣類が一番かさむものである。今回の旅でGパンを持ってきてたけど、結局は一度もはくことがなかった。彼らはレイクルイーズには1週間ほどキャンプ場に滞在してたとも言ってきた。
「1週間の滞在か〜。いろんなところを見てきたの?」
「いや、あまり観光をしなかったよ。俺達はなまけものなんで...」
キャンプ場でごろごろとしながら、過ごしてたそうだ。まあ、あくせくとあっちこっち見て周るのもいいが、そうやってのんびり過ごすのもまた旅の醍醐味だと思う。
「俺が乗せるまで、どのくらいあそこで待ってたの?」
「ん?5分位だよ。ヒッチハイクのポジションを捜して経っていたら、君が来てくれたというわけだ。」
5分で乗せてもらえるなんて、なんと羨ましい。俺なんか、1時間位待つのはざらであった。運も左右されるけど、身なりや日頃の行いも関係してくるのであろうかと考えてしまった。
アイルランドから来たというので、その年にちょうどサッカーワールドカップが日本と韓国で同時開催されたから、その話を振ってみた。彼らもサッカー好きで、ちょうどその頃はカナダに来ていた。しかしカナダの国はあまりサッカーはメジャーではない。情報があまりにも入らず困っていたようだ。自分達の国が対戦する時は、いろいろとパブを駆け回りようやく見ることができたとこぼしていた。北米のパブは全部とはいえないが、結構テレビモニターが置いてあって野球やアイスホッケーの試合を放映してる所が多い。6月にワールドカップが開催されている時、とあるニュース番組でワールドカップに関する海外の報道状況を放映してたのを思い出した。イギリス、ドイツ、フランス、南米等サッカー大国である国々はお祭りのごとく各メディアが報道していたが、今回ワールドカップに出場しているアメリカでのワールドカップに関する報道はほとんどされておらず、ほんのちょこっとだけしか流してなかった。メディアでもそんな扱いだから、街中にあるパブでもワールドカップのサッカーを放映してる店もあまりなかった事が取り上げられてるのを思い出した。そういえばサスカトゥーンで知り合ったドイツ人の青年も情報が少なくて嘆いていた。俺もアイルランドの試合はテレビで見ていたので、強豪ドイツに1点ビハインドから追いついて引き分けに持ち込むなど、粘り強いサッカーを展開することでで印象に残っていた。
「アイルランドは強いよね。あの強豪のドイツに引き分けたじゃないか。テレビで見てたけど、感動したよ。アイリッシュスピリットには敬意を評するよ。」と言った後、「(ドンドンドドドンドドドドン)アイルランド!」とアイルランドのサポーターコールを車内でしてあげたら、二人はとても喜んでくれた。
このサッカーの話をきっかけに話が結構盛り上がってきた。アイルランドといえばラグビーも盛んな国だ。
「そうえいば、アイルランドはラグビーもメジャーだよね。5カ国対抗ラグビーだっけ?」
「おおそうだよ。でも今は6カ国対抗になってるよ。」
知らぬ間に一つ国が増えていたことを知った。日本の大学ラグビーしかみてないので、海外のラグビーはほとんど情報にうとかった。 その後彼らは何と言う競技名か忘れてしまったが、アイルランドは他にホウキのような道具を使うホッケーも有名だと教えてくれた。
「ところで、君らは何時までジャスパーに着かなければならないとかあるの?」
俺は彼らの時間を確認しておくことにした。それによって帰りの予定をどうするか考える為だ。
「いや、何時でもいいよ。」とニックが答えてきた。
「そうか、この先にボウ湖があるんだ。昨日は雨だったので立ち寄らなかったけど、今日は天気がいいので写真を撮りたいんだ。立ち寄ってもいいかい?」
「どうぞどうぞ、全然問題ないよ。俺も写真をとってみたいし。」
「 俺は今日このレンタカーを返す為に18時まで戻らなければならないんだ。じゃあ、ゆっくり帰れるね。ところで、ここカナディアンロッキーは初めてかい?」
「ああ初めてだよ。」
「じゃあ、帰りがてら時間の許す限り、名所を案内するよ。ここはすばらしい景色がたくさんあるからな。実はここに来るのは2度目なんだ。初めて来た時は8年前に自転車で走破をしたんだ。」
「何?自転車でここを走ったのか?信じられん。」
ニックは驚いた顔で答えてきた。
「今までいろいろヒッチハイクをしたけど、名所を案内してくれるなんて初めてだよ。まるでツアーガイドみたいだな。」
「B−Yツアーガイドへようこそ!」というと2人は爆笑しまくった。
しかし今日の天気は昨日とは対照的にすばらしい青空が展開されていた。まさにロッキー観光日和である。そうこうしているうちにボウ湖に到着した。
ボウレイク。昨日は雨だったので通り過ぎたけど、今日は天気が良かったので立ち寄った。前方にクロウフット氷河が見えるけど、雪が多すぎて二本に分かれてませんでした。
ここもレイク・ルイーズと同じく湖面の色がエメラルドブルーの色に輝いていた。対岸にある山のクロウフット氷河も見えた。普段は2本の爪あとのような形をしているのであるが、まだ雪が沢山積もっている為、その姿をあらわすことはなかった。ニックとクレアも自分達のバッグからカメラと8ミリビデオを取り出し景色を撮りまくっていた。しばらく休憩した後出発をした。
「次はペイト湖に行くよ。ここからすぐだから。ここもお薦めの場所だよ。」車に乗りこみ出発した。すると、道路に何台も車が停まっているのが見えた。この状況からすると近くに野生の動物がいるに違いない。車を路肩のスペースに停めて、皆が見ている方向を眺めてみた。しかし動物らしき姿はどこにも見当たらなかった。
「クマよ!グリズリーだわ!」
後部座席に座っていたクレアが突然叫びだした。
「何?クマ?」
ここまでの道中でブラックベアは何回か見かけたが、グリズリーはまだ見てなかった。しかしあちこち見回したが俺の目の中にはどこにもクマらしき物体を探し当てることができなかった。
「どこだ?さっぱりわからん。」
「B−Y。あそこよあそこ。」
どこだ?どこだ?
おっ!いたいた。(写真のほぼ中央にあるこげ茶色の物体がグリズリー)しかし距離が遠くて小さすぎ・・・
なんか草を食べてるようです(写真中央のこげ茶色の物体)
グリズリーはその辺をのそりのそりと動き回っていました。
クレアが指を指して教えてくれるが一向にわからん状態だ。デイパックの中から双眼鏡を取り出し、周りを見渡してみたがそれでもさっぱり見当たらない。
「どこだ?どこだ?俺にはさっぱりわからんぞ...」
助手席に座っていたニックがたった今撮った8ミリビデオの映像を俺に見せてくれた。ブッシュ(草むら)の中をもぞもぞと動き回ってるクマの映像がはっきりと見えた。俺としてはどうしてもカメラにグリズリーの写真をとりたかったので、クレアに双眼鏡を渡し、俺はひたすらカメラの望遠で捜しまくった。
「居た!見つけたぞ!」
カメラのファインダーにようやくグリズリーを見つけることが出来て俺は嬉しくなってしまった。しかし距離がかなりあるため、被写体はとても小さい。グリズリーはエサを食べているのか、モゾモゾと草むらの中をゆっくりと移動をしていた。距離が遠すぎるのでもっと近くの写真を撮りたいと思っていたので、
「おい!クマ!もっとこっちに来い!」
と叫ぶと、ニックが
「おいおい、本当に来たら危険だぞ。」と笑いながら返してきた。
急に雲行きが怪しくなってきた。さっきまで晴れ渡る青空があったのがとたんになくなってきた。すると車のフロントガラスにポツポツと小さな白い粉みたいなものが振ってきた。
「雪だ!」 しかし、雪が降るとは驚きだ。ガイドブックにはロッキーは夏でも雪が降ることがたまにあると書いてあったけど、まさか本当に雪に遭遇するとは思いも寄らなかった。後部座席に座ってるクレアも驚いて、ひたすら「信じられないわ。」と連呼していた。
引き続きクマをずっと観察してたが、一向に距離が縮まる気配がないので、俺は車から降りて少しばかり草むらに入ってクマの写真を撮り続けた。本来ならクマは危険な動物なので、万が一遭遇したら車の中に居なければならないのであるが...。もちろん距離は十分にとった。間近まで近づくことは出来ない。ふと道路をみると、交通渋滞が起きていた。後から来る車がこのグリズリーの出没で何事かとスピードを落とし停車をしているのだ。路肩に寄せて停まれば通行の妨げにはならないが、横列駐車状態となっている。普通の乗用車ならまだしも幅のあるキャンピングカーが堂々と横列駐車をしているのだ。しかも後続から観光バスも続いてきている。普段はほとんど交通量の少ないこのアイスフィールドパークウェイもちょっとした渋滞になっていた。1時間位ここに滞在してたので、あまり長居もできないので、次の目的地であるペイト湖へ向かう事にした。
ペイト湖の駐車場に着くと同時に雪は止みまた青空が広がってきた。すぐ目の前にそびえる山の頂にはうっすらと雪が積もっていたのが見えた。山の天気は変わりやすいとよくいうけど、なんだかとてつもなく忙しい天候であった。ニックとクレアには40分の時間を与えるからまた戻ってきてくれと伝えた。
「B−Yは行かないのか?」
「俺はいいよ。昨日も来たし、8年前にも来たから。それに昼飯をまだ食べてないので、ここでランチタイムにするよ。ここから歩いて10分くらいだから気をつけて。」と言って、彼らを送り出した。彼らがペイト湖に行ってる間にガソリンスタンドで買ったハンバーガーを食べ、タバコを吸いその後まだ散らかっている荷物を整理することにした。そして40分後キッパリと彼らが戻ってきた。
「どうだった?」と尋ねると
「すばらしかったよ。」とニックが応えてきた。
さあ、再び出発だ。二人を乗せて少しづつジャスパーに向かった。時々自転車で旅行をしてる人たちをあっという間に追い抜いていった。ニックは彼らを見るたびに、
「彼らは大変だよな。やっぱり車が一番楽だよ。」とつぶやいていた。
「B−Yも以前はああやって旅したんだろ。」と言われ俺は8年前の出来事を思い出した。あの時は辛くて辛くて大変だった。アップダウンが激しく時々、「あ〜なんで俺はカナダに来て自転車をこいでいるんだろう。」と自問自答したときもあった。でもその苦労を成し遂げた人しか得られない「感動」があるのも事実だ。苦しい坂道を登りきりそこから見える景色のすばらしさなどなど、同じ道を通るにしても移動手段が違うだけで、また味わう実感が全然違ってくるのだ。
ジャスパーに戻る途中のアイスフィールドパークウェイ。
サンワプタ峠の手前にあるビッグベンド(大曲り)を走り去るときつい坂道に入った。車で上るにもアクセルを結構踏まないと上れないので、以前自転車でこの坂道を自力でよく登ったものだと懐かしくなってきた。ブライダルフォールが見えるビューポイントで休憩をとった。
ここの坂道を登る切るとコロンビアアイスフィールドはもうすぐだ。昨日は氷河の先端と雪上車に乗ったので、そのまま素通りするつもりだったけど、ニックとクレアがいるので、小休止をすることにした。
「次はコロンビア大氷河で休憩するから、大きな氷河が見えるよ。ここも有名なスポットだから。」と説明した。
アイスフィールドセンターの駐車場の車を停め、氷河を眺めた。クレアは偉く感動したようで、
「すごいわ。すごいわ。」と言葉を連発していた。
「B−Y。ゆっくりタバコ吸ってていいわよ。私達は写真をとるから。 」とクレアが言った。彼らは8ミリビデオで撮影したり、フィルム用カメラで写真を撮ったりと忙しそうにしていた。氷河をバックに二人の写真を撮りたいというので、写真を撮ってあげた。彼らは以前ニュージーランドでも氷河を見たことがあるといってたけどこんなに間近で見れるのは初めてと言ってた。
俺はふと時計に目にやった。思ったより時間がかかっていることに気づいた。グリズリーの件でずいぶん時間をロスしてしまった。このままのんびりしてりしてると車を返却する18時に到着するのに間に合わなくなってしまう。コロンビア大氷河から、俺は少しスピードを上げてジャスパーに向かう事にした。前に見える車を登坂車線があるごとに追い抜かしまくった。車を追い抜くたびにニックは無邪気に「バイバーイ!」とおどけてまくっていた。
「北米の道路は運転しづらいね。日本だと車は左側通行なんだけど、こっちは右側通行。時々、日本と同じように左側を走ってしまうんだ。」というとニックが
「アイルランドも左側通行だよ。」と教えてくれた。
そうかアイルランドも日本と同じなんだ。初めてしった。いやーいろいろ勉強になるな。
「ニック。ジャスパーに着いたらどうするんだい?」
「特に予定は立ててないよ。」
「そうか。いろいろ見所はたくさんあるけど、ウィスラー山はお勧めだから絶対に行った方がいいよ。すばらしい景色を見ることができるから。あとマリーンレイクもお勧めだから。ところで宿はどうするんだい?キャンプ場にするの?」
「うーん、今回はB&Bに泊まるよ。B−Yのおかげでジャスパーまでの交通費が浮いたからね。俺らは4ヶ月の長いたびだからお金はできるだけ節約しないといけないから、なるべくヒッチハイクを利用してるのさ。B−Yはジャスパーに着いたらどうするの?」
「俺は今日夜中のグレイハウンドの便でバンクーバーに行くつもり。それからバンクーバーアイランドのトフィーノにいくつもり。クジラをみたいんだ。バスは0:30発だからそれまでパブでビールでも飲んで時間を潰そうと考えてる。」
「おおー、ジャスパーにパブがあるのか。いいなー。俺らもご一緒していいか?」
「全然かまわないよ。そこのパブは24時間営業で駅のすぐ近くだからバスを待つには便利なんだ。」
「ギネスビールはあるかな?」
「多分あると思うよ。」
「B−Yはギネスビールを知ってるのか?」
「知ってるよ。日本でも売ってる。」
「何?日本でも売ってるのか?ギネスはアイルランドのビールだからな。」
「へぇー、アイルランドのビールだったんだ。俺は今までギネスビールはイギリスのビールだと思ってた。」
「違う違う。ギネスはアイルランドだぞ。よく覚え置くように。」とニックは笑いながら教えてくれた。
「そういえば、ギネスといえば有名なものがあるよね。なんと言ったっけ?例えばいろんな世界一を登録してるやつ。」
「なんだそれ?知らんぞ?」
俺はギネスブックのことについて話したつもりだったが、俺の説明が下手だった彼らには通じなかったみたいだ。
「クマよ!」とクレアが叫んだ。こんどはブラックベアみたいだ。一瞬引き返そうと思ったけど、18時までに戻れるかまだ自信がなかったので、そのまま走り続けた。ブラックベアなら既に何回か目撃してたからだ。クレアの目撃情報によると結構大きなクマが道路脇の草むらを歩いていたそうだ。さっきグリズリーを見たしもうどうでもいいやと自分にいい聞かせた。でも後で引き返して写真に収めておけばと今でもつくづくと後悔している。
その後動物との遭遇はなく、着々とジャスパーに近づきつつあった。時々俺は車を走らせながらフロントガラスから見えるロッキーの景色を写真に収めた。昨日は曇りや雨だったため、あまり景色を堪能していなかったからだ。
基本的に交通量が少ないので、帰りはかなりスピードをあげた。でもいきなり動物が道路を横断する可能性も高いので、やはり安全運転が基本かも。
結構飛ばして走った為だいぶ時間を短縮することができた。これならば後一箇所くらい名所に立ち寄っても大丈夫そうだったので、アサバスカ滝に立ち寄ることにした。ニックとクレアに、
「ここもロッキーで有名なスポットだよ。滝の高さはそんなにないけど、ものすごい水の量と音だぞ。30分時間をあげるから見に行っておいで。俺は昨日立ち寄ったから、ここでタバコでも吸ってるから。」
「あらタバコなら車の中で吸えばいいじゃない。」とクレアがいった。
「いや、このレンタカー、禁煙車なんだ。」と俺は窓ガラスに張ってある禁煙のステッカーを指差した。
やっぱり禁煙車はつらい、こうして適度に休憩をいれないと吸えないからだ。でもタバコを吸わない人にとってはこの方が断然ありがたいだろう。いろんな人が使用するレンタカーでは、タバコを吸っただけで車内にそのにおいがこびりつく。タバコを吸わない人ならなおさらそのにおいに敏感になるから致し方あるまい。喫煙者もいよいよ肩身の狭い環境になってきた。待ってる間ちょっと小腹が空いてきたので、Oさんにもらったリンゴを食べた。少し傷んでた感じがしてたが気にせずに食べてしまった。食いかすは備え付けのゴミ箱に捨ててきた。車に戻ると俺の隣に大きなピックアップのバンに乗ってたおっさんが陽気な感じで話し掛けて来た。
「滝は見に行ったか?しかしすさまじい滝だな。」
「確かに。すごいと思うよ。」
「どっから来たの?」
「日本から。1ヶ月程カナダを回ってるんだ。」
俺はおっさんの車のナンバープレートを見た。そしたら「ARIZONA」と書かれていたので、
「おっさん、アリゾナから車で来たの?結構遠いですよね。俺も10年前にアリゾナに行ったことがあるよ。グランドキャニオン、モニュメントバレー、フォーステイツコーナーに行った。」
「そりゃ、いいことだ。また来てくれよ。アリゾナもいいぞ。」
北米の人達は得てして自分達の国、州、街を誇りに思ってる人達が多い。そうでもない人もいると思うが俺が今まで出会った人達は全てが自分の故郷を愛し誇りを持っていた。
30分経つとこれまた時間キッカリと二人が戻ってきた。滝のすさまじさに圧巻された感想を述べていた。車に乗り込み一気にジャスパーに向かった。ウィスラーキャンプ場の近くで、シカの群が道路脇で草を食んでいた。ちょこっとだけ車を停めてシカを観察する事にした。よく数えてみると10匹近くいるではないか。シカはカナダに来て、何度も見かけたので特に珍しいという感じはしなかった。
「そういえば、8年前に来た時もここでシカの群に出会ったよ。」
「その時のシカかも知れんぞ。8年振りのご対面だな。」ニックは相変わらず陽気に俺のしゃべったことに反応をしてきた。
「さあ、もうすぐジャスパーだ。もっと時間があれば、いろんな所に連れて行ってあげたかったけど、すまんな。」
「とんでもない。乗せてくれただけでも感謝しなきゃいけなんだ。気にすんな。ありがとう。本当に助かったよ。B−Yに出会えてよかったよ。さあ、ジャスパーでビールでも飲もうぜ!」
なんだかんだいって結局ジャスパーに着いたのは18時ちょっと前であった。レンタカーを返却する前にガソリンを満タンにして返さないといけないので、ガソリンスタンドに立ち寄った。ガソリンスタンドには全身を黒い皮ジャンで身を包んだハーレー軍団がたむろしていた。彼らは何故か一様に髭をたくわえ黒いサングラスをしていた。バイクが邪魔でガソリンを入れることができなかった。しばらく待っていても一向に立ち去る気配がないので、
「もう少し前に行ってもらえないか。」と言うと、
「後一人で給油が終わるからもう少し待ってくれ。」といかつい体をしたライダーの一人に言われ待つことにした。もうすぐ18時を周るので俺は車内でちょっと苛つきながら彼らが立ち去るのをまった。ふと車内の荷物を探しているとニックが突然叫びだした。
「おいおい、あぶないあぶない。」
俺がブレーキペダルをちょいと外したので、クリープ現象で車が前進しはじめたのだ。車の前にはハーレー軍団のバイクが目と鼻の先にある。俺も慌ててブレーキペダルを踏んだ。ハーレーのライダーも驚いて、車の前に立ちはだかって、手の平を俺の方に向けて「止まれ!」とジェスチャーしていた。ニックはかなり驚いていたのか、俺の方をみて、
「おっおっおっ!」と手を胸に当てててなでおろしていた。
「悪い悪い...。」と俺は言いながらギアをPに入れサイドブレーキを引いておいた。
ハーレー軍団のライダー達は俺のそのちょっとしたミスを煽りと勘違いしたのか、すぐさま一斉にガソリンスタンドから立ち去ってしまった。
ガソリンを満タンにし、駅の隣の駐車場に車を停めた。ニックは宿の手配をする必要がある為、観光案内所へ向かい、クレアに俺の荷物の見張り番をしてもらった。もう18時をちょっと過ぎていたので、俺はとりあえずレンタカー会社のカウンターに向かった。カウンターは何故か車を借りる客でちょっと混雑をしてた。車のカギを閉め忘れていたので、もう一度車の場所に戻った。クレアが、
「もう手続き終わったの?」
「いや、カギを閉め忘れた。」といったら笑われてしまった。クレアは先にニックのいる観光案内所に行くというで、後から向かうからと伝えておいた。まだ、事務所が閉鎖する気配もなかったので、俺は自分の荷物の整理を行うことにした。ここ3日間程、トランクに荷物を入れっぱなしだったので、散らかり放題だったのだ。寝袋や衣類をスタッフバッグに入れ、ついでに各地の観光案内所でもらってきたパンフレット類があふれかえっていたので、不必要なものは捨てる事にした。だいぶ荷物が減りバックパックの中に収納するスペースが出来てきた。衣類と寝袋のスタッフバッグをバックパックに取り付け、ようやく荷物の整理が終わった。そのまま荷物を担いで再び、レンタカー会社に戻った。客は相変わらずいたが、近くでぼーっとたってるとスタッフの一人が話し掛けて来たので、車を返しに来たと告げた。車のキーとレンタルした際のインボイスを渡し、名前をいうとスタッフは
「ガソリンは満タンにしてある?」と言ってきたので、「もちろん。」と答えた。その後スタッフは車の点検をしにいくというので、10分程待たされた。車の状態も問題なしというので、予め払ったデポジットも無事変換される事となり、もう一度インボイスを書き改めることとなった。
無事返却手続きも終わったので、俺はニックとクレアのいる観光案内所へ向かった。クレアが、観光案内所の前でバックパックをクッション代わりに座っていたので、声をかけた。ニックは現在観光案内所でB&Bの紹介を受け電話を掛けてる所であった。無事宿の手配が出来たというので、ニックは一度、B&Bに向かわなければならないという事になった。彼らの宿は片道歩いて15分位の距離だという。ニックが俺とクレアで先にビールでも飲んでいてくれというので、そうすることにした。パブはジャスパー2日目に立ち寄った観光案内所のすぐ近くの所にした。ていうかそこしか知らんのだ。
パブの店内に入ると冷房が効いてとても涼しかった。くそ重いフル装備の荷物を他の客に邪魔にならないように店の片隅の壁に置くことにした。貴重品はもちろん肌身離さずにしてある。一応俺の目に入る場所であるし、万が一誰かが持っていこうにもあまりの重さだから不可能なはずだ。クレアが
「どの銘柄のビールにする?」と言ってきたので、
「コカニーにするよ。カナダ産のビールだから。」
「パイントでいい?」
パイントの意味がよくわからなかったので、めんどうくさいから、それでいいと言っておいた。まだ北米のパブのシステムをあまり理解して無かった。一回の注文ごとに代金を支払うキャッシュオンデリバリーのシステムはなんとかわかるのだが、ジョッキやグラスでビールを飲むときの注文方法をどうやっていいのか、さっぱりわからなかった。とりあえず、「バドワイザー」など銘柄で注文すると、決まって瓶ビールがでてくるのだ。瓶ビールといっても日本の飲み屋のように、コップが一緒に付いてくるわけでもなく、それを直接ラッパ飲みにして飲むのが、こちらのスタイルである。しかし細かい話になるが、どうもこのラッパ飲みのスタイルはあまり好きではない。なんか、口に含んだ瞬間に泡ばかりになったような気がしてならないのだ。できれば生中のようにジョッキやグラスでビールを飲みたい気がするのだが。どうやったらジョッキやグラスで飲めるのか、ちょいと悩んでいたのだ。パイントで注文をしたらグラスビールが2つ出てきた。自分の分のビール代を払おうとすると、クレアは拒んだ。ヒッチハイクで乗せてくれたお礼がしたいというのだ。別に俺は見返りを望んで乗せたわけでもないので、自分の分は自分で払うと言っても受け付けてくれなかった。あまり店の中でゴチャゴチャしてもしょうがないので、ここは相手の好意に甘える事にした。まだニックが戻ってきてないけど、とりあえず二人で乾杯をした。
今ここでHPにニックと書いているけど、実は彼の名前を忘れてしまっていたのであった。再び彼に直接尋ねるのもなんだかバツが悪いで、クレアにこっそりともう一度彼の名を教えてもらった。今度は忘れないぞ。その後、話の話題が途切れてしまい、クレアと俺の間にちょっとした沈黙ムードが漂ってしまった。何を話しかけていいのか、ひたすら考え込んでしまった。相手が日本人なら、適当にできるけど、いったん英語に訳さないといけないから日本語みたいにポンポンとでてこないのだ。特に女性を前にして、この沈黙ムードというのは俺にとって非常に苦痛なのである。何か話さないとという気持ちだけ先走り、会話がでてこないというのは何だかとても辛い。その内クレアがパブ内に流れてるBGMにあわせて鼻歌を歌いはじめたのた。やばい、何だかあきらかに退屈してるような感じだ。その鼻歌を切り口に、
「クレアは音楽とか好きなの?」と切り出せる事ができた。
「ええ、大好きよ。」
「どんなの聞くの?」
「そうね。ポップス、ロック、カントリー。フォークも聞くの?B−Yは?」
「俺は、ロック。特に60〜70年代の古いロックね。あとカントリーも好きだよ。去年、クラプトンが日本に来たので、ライブにも行ってきた。」
「あらすごいじゃない。クラプトンはアイルランドでも人気があるわよ。」
「アイルランド系だと、U2やエンヤが日本でも人気があるよ。」
「エンヤは私も大好き。いいわよね、彼女の曲。」
「俺もエンヤとU2のCD持ってるよ。」
なんとか会話の糸口が見つかり内心ほっとした。音楽系の話題は世界共通でいい!でも相手が音楽を全く聞かないと話は別だが...。とりあえず糸口がつかめたのでと多少ビールで酔いがまわってきたので、会話はキャッチボールのごとくとんとん拍子に進んでいった。音楽の話の次は野生の動物の話題に移った。時々彼女が俺の英語の使い方に訂正を入れてくれるので、ちょっとした英会話スクールの感じになってきた。
「I could see elk and moose.(エルクとムースを見る事ができた。)」と俺がいうと、クレアが
「I saw elk and moose.」といった感じだ。なるほど、couldは使わなくていいのか。いやー勉強になる。その内、クレアも酔ってきたのか、自分からベラベラと話始めてきた。
「ねぇ、B−Y聞いて。今日はテントじゃなくてB&Bに泊まる事ができるの。ベッドに寝れるのよ、バスタブにもつかれるのよ。こんな嬉しいことはないわ。」ととても嬉しいと言った感じで語ってきた。聞くところに寄ると、彼らはここ2週間程ずっとテント生活だったそうだ。俺も日本でバイクや自転車などで、キャンプツーリングをしてきたからその気持ちは非常に理解ができる。3〜4日程テント泊をしただけでも布団に寝れるありがたみを何回も経験してきた。2週間という長期間であれば、久々に宿に泊まれる嬉しさというのはこの上ないだろう。
30分位してから、ようやくニックが合流した。B&Bを予約した際に宿側からドタキャン防止の為、30分以内に宿に来いといわれたらしい。随分疑い深い宿だ。ちなみにB&BとはBED&BREAK FASTの略で朝食付きの宿のことをいう。俺はこのB&Bにはまだ一度も宿泊した経験がないので、なんとも言えんが。ガイドブックとかにはよく民宿みたいな宿と記されているのが多い。もう一度ビールを注文し改めて3人で乾杯をすることとなった。ニックが乾杯は日本語でなんていうのかと尋ねてきたので、「カンパイ」だよと教えると、ぎこちない発音で「カンパイ!」と言って乾杯をした。アイルランドでも乾杯の言葉がある。その時教えてもらったのだが、今は何ていうのか忘れてしまった。
「B−Y、英語上手いじゃないか。どこで学んだんだ?」とニックが話しかけてきた。お世辞だと思うけどそれでも、何故か嬉しかった。
「ほとんど独学。日本では中学と高校で英語の授業があるんだ。でも授業のほとんどは文法とリーディングが中心だから、こうした会話の授業がない。もっと勉強しないと。」
「でも私達はB−Yが言ってることはちゃんと理解できるわよ。」とクレアが言ってくれた。
しかし、自分の言ってることが相手に通じても相手が何を言ってるのか聞き取れない事もよくある、その逆もしかりだ。クレアの話によるとニックは俺に対してかなりゆっくりな口調で話してくれてるといってくれた。それでもまだだいぶ早く感じてしまうのだ。会社で仕事をしてた時も時々海外へ電話を掛けることがあったが、その時は決まって
「すいません、英語が不慣れなのでもっと、もっと、もっと、ゆっくりとしゃべって下さい。」と付け加えていたのだが、それでもしゃべるスピードはあまり変わらなかった。
「英語で会話をする時は、ものすごく神経を集中させなければいけないから、とても疲れるんだ。でも、楽しいけどね。」
その内ニックが腹が減ったというので、何か食べ物を注文しようと言い出した。考えてみたら俺もだいぶ腹が減っていた。それにすきっぱらでのビールは酔いが早くまわり、少々辛かった。しかし、こんなパブで飯なんか食えるのだろうかと思っていたら、ニックがウェイトレスを呼んでメニューを持ってこさせた。なんだちゃんと飯が食えるんじゃん。おまけにメニューを見ると寿司も食えるではないか。ニックとクレアはちゃんとした食事を注文したが、俺は奢ってもらってる身分だったので、そのメニューの中で一番安いオニオンリングを注文することにした。彼らも長い旅を節約しながら行っていたので、なんだか悪いと思ったからだ。テーブルの上に料理がやってきた。ニックは俺のオニオンリングがあまりにも貧弱に感じたのか、自分の料理を少し分けてくれた。食事中にクレアが何かの拍子で食べ物を床にこぼした。彼女は、
「Shit!」と小さくつぶやいた。その後、日本では食べ物をこぼしたときどう表現するのと言われ、ちょっと返答に困った。俺も今まで外人を見てきたけど、食べ物をこぼすとクレアと同様に「Shit!」と言う人が多かった。でも日本だとなんて言ってるのだろう?あまり考えた事がなかったので、自分がいうセリフを教えることにした。
「あっ!」もしくは「あ〜ぁ...」と教えてあげた。その後、彼女は
「Shit!って汚い言葉なんだけど、日本には汚い言葉使いってあるの?」
「あるよ。例えばねー。バカ野郎、ふざけんな、てめぇこの野郎ぶっ殺すぞ!」とわざと目を据わらせてガラを悪く言ってみたら、二人がゲラゲラと笑いはじめた。そして一つ一つの単語を英語に訳して説明をした。なかなか興味を盛ってくれたので、ついでに日本語の発音や平仮名も教えてやった。多分理解してないだろう。
ニックはアイルランドで漁師をやってたというので、いろいろと魚の話が出てきた。漁師ということもあって寿司も大好物だそうだ。魚の単語が出てくるたびに俺は手元においてあった辞書で意味を調べまくった。しかし、会話の中においての辞書の使用はとても使いづらい。調べてる間に会話のスピードについていけなくなってしまうのだ。アイルランド近海ではフランスなどの他の国の漁船も来てるから、漁のポイントでバッティングすることもあるから、その時は後から来た漁船に自分達の網の場所を紙に書いてそれをジャガイモに丸めて、その漁船に投げて教えあうということも教えてくれた。
ニックも酔いがまわってきたのか、クレアをそっちのけでひらすら俺にしゃべりまくってきた。彼はいろんなエピソードを持っていて、聞いてて飽きないのであるが、ふとクレアをみると自分の方に話が回ってこないので少々退屈そうに外の景色を見始めた。俺はなんだかやばいと思って、会話をクレアに振ろうと考えたがなかなかきっかけがつかめずちょっとあせってしまった。ニックは建設現場で仕事をしてたときに彼の同僚が、何かの賭けに負けてその罰ゲームで誰かがビルの建設現場の屋上からロープで足を縛り、バンジージャンプみたいにして飛べと指示が冗談ででたのだが、その賭けに負けた人はそのまま指示通り実行し帰らぬ人となったという何だか笑うに笑えぬエピソードを話してくれた。先程からニックは俺のジッポのフタを親指と人差し指と中指ではさんで開ける技を披露していた。タバコを吸わない人なのにジッポの技に長けてるなんてめずらしい。俺はさっきから、退屈してそうにしているクレアにも会話に交じってもらおうと話題を変えてみた。
「カナダのタバコは高くてね。日本だと3ドル位で変えるのにこっちは9ドルもする。3倍の値段だよ。しかもこのタバコの箱見てよ。まるでタバコをやめろといわんばかりだ。」と俺はタバコの箱に掲載されている、毒々しい写真をみせた。こっちのタバコの箱は日本のように「あなたの健康を損なう恐れがありますので吸いすぎに注意しましょう。」という生やさしいものではない。肺がんなる、歯槽膿漏になる、赤ちゃんに悪い影響を与える等、タバコに関する有害性をストレートに表現をしている。その中で印象的だったのがイ○ポになるという男性諸君にとっては切実なるメーッセージが記された箱を俺は持っていた。
「ニックこれをみてくれ。俺も気をつけないと。」とそのタバコの箱を彼に見せた。彼はその箱の写真をみてドヒャヒャと笑い、
「マジか?おいクレアみろよこの写真。」
といってクレアに見せた。その写真はタバコの燃え尽きた灰がふにゃりと曲がった内容であった。クレアもその写真をみて思わず吹き出し、
「おー、何これ?」と自分の人差し指をカギ状に曲げ笑い転げていた。
二人のビールを飲むピッチはとても早かった。俺は3杯位でなんだかおなかが一杯になり、ちょっとペースを落としたが、彼らは水でも飲むかのように、ビクビクとビールを胃の中に入れていった。しかも悪酔いはせず、ほろ酔い加減の状態だ。
「B−Y、もっと飲まないと。」と何度も煽られたが俺は丁重に断った。このまま飲み続けると気持ち悪くなりそうであった。彼らは次に小さなグラスに注がれた酒を注文してきた。しっかり俺の分まである...。
「それ、なんという酒?」と俺が質問をすると、ニックが
「サンブーカという酒だよ。」
「どこの国の酒?」
「うーん、わからんたぶんスペインじゃないか。」
そういうと、二人はその小さなグラスにある酒を一気にのみ干した。俺も続いて飲み干そうとしたら、ゲホゲホとむせてしまった。あまりにもアルコールがきついのだ。しかし、味付けはとても甘く気をつけて飲めばむせることはないのだが...。むせた後、とりあえず全部飲み干すことにした。
時間が21時頃を過ぎた。ニックとクレアは宿に戻るというのでお開きにする事にした。最後に3人で一緒の写真をとり、メールアドレスの交換もした。(カナダから戻ってしばらくした後、彼らにその時撮った写真も添付してメールを送った。彼らからの返事が来た。ちょうどアラスカに居て海に流れ込む氷河やオーロラを見ることができたと元気そうな返事であった。それからアラスカの物価はべらぼうに高く旅行者にとってはあまりやさしくない地域であるとこぼしていた。)重たい荷物を背負うと、店内の客は俺に注目をして驚いた。うちらの後ろのテーブルに座っていた、初老のグループが俺に話し掛けて来た。
「すごい荷物だな。どっから来たんだ。」
「日本から。これから夜行バスでバンクーバーへ行きます。」
「日本か〜、日本の会社と取引してるけど、みんなこういうんだな『そうですか〜』と。」そのおっさんはその後も「そうですか〜、そうですか〜。」と何度もエンドレステープのように言ってきた。俺もすかさず、「そうですよ〜、そうですよ〜。」と言い返すと嬉しそうに笑ってくれた。得てして、ほんの少し日本語を知ってる外人は皆、その知ってる言葉を連続して行ってくるのが共通のようだ。
店の外にでるとまだ、空は明るかった。いかにも夕方といった感じである。俺は二人にごちそうになったお礼をいい、別れの握手をする為手を差し伸べた。先にクレアが俺の手を握り、その後抱きついてきた。日本だと抱きつく挨拶はあまりないが、外国だとそれが普通の挨拶になるので、俺も違和感なく抱きつくことにした。その後ニックと握手を交わし、お互いに抱き合って別れを惜しんだ。お互い旅の幸運を祈って去ることとなった。お互い、姿が見えなくなるまで手を振りながら距離を少しづつ離していった。旅の醍醐味はこうした人との出会いだと思う。旅の中で一番思い出に残るのはやはり人との出会いが一番印象的に残る。旅の道中どこで何があるのかさっぱり予測がつかない。今回はこうしてたまたま車に乗せた事がきっかけで、楽しく過ごすことができた。もちろん楽しいことではなく、危険なことがあるかもしれない。でもどう転ぶかは結局は運次第だと思う。もちろん人生においてもこれは当てはまる。
二人の姿が見えなくなった後、俺はヘベレケになりながらバス停へ歩いていった。バスの発車時刻は0:30。まだ3時間以上あるので、しばらくベンチに座ってミネラルウォーターを飲みながら酔いを覚ました。その後ベンチにバックパッカーのカップルが座ってきた。彼らは寒いのかお互いラブラブそうに抱き合いその内俺の隣で「チュッ、チュッ!」と音を立てながらキスをしまくりやがった。最初はまあ外国だし、公衆の面前でキスをするのは珍しくもないし、それが文化だからしかたがないと自分に言い聞かせて無視してたが、だんだん時間が経つと腹がたってきたので、俺はタバコを吸いながら、眉間に皺をよせて彼らにギロリンコとにらみつけてやったら、彼らはその雰囲気を察したのかベンチからはずれバス停の隅っこに移動しそこで日が暮れるまでいちゃついていた。バカップルがいなくなったので、その後日が暮れるまで、さぼりまくっていた旅の日記を書けるところまで書いた。日がどっぷり暮れて日記が書けなくなるとすることがなくなってしまい。暇になってしまった。とりあえず、酒臭い息では密閉された車内で顰蹙をかってしまうのでバス停の片隅で歯を丹念に磨いた。
ロッキーの夜はとても寒く、適当に足踏みをしながらまだかまだかとバスを待っていた。時間が迫るにつれ、どこからともなく俺と同じようなバックパッカー達がちらほらと集まってきた。みんな夜行バスに乗るのるみたいだ。30分前になると総勢20人近くがバス停に集まってきた。
やがてバスがやってきた。バスの運ちゃんが降りてきてこのバスは満員だから乗ることが出来ないので、この後もう1台のバスがこっちに向かってるからそれに乗ってくれとアナウンスをしてきた。15分後にもう一台のバスが現れ、無事乗車した。車内はそれほど混んではおらず、2人分のシートを独り占めにして、寝ることにした。
(つづく...)