7/26ジャスパー4日目(ウィスラー山観光)
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*7/26ジャスパー4日目(ウィスラー山観光)*

 5:30に一度目が覚めた。外は雨が降っていた。景色を楽しむここカナディアンロッキーでの雨はちょっと憂鬱である。昨晩は咳にちょっと悩まされてあまり寝れなかった。カナダに来て約3週間日本から出発する直前にひいた風邪が未だに完全に治りきってない...。健康管理がどれほど重要か身にしみてきた。おまけに下痢も1週間程続いている。熱の方はとっくに収まってるのが唯一の救いだ。これで熱がずっと続いていたら旅の楽しみは半分以下になっていたことであろう。咳が出続けているのにもかかわらず、外にでてタバコを吸って、またベッドに戻り2度寝をした。再び起きたら8:30になっていた。今日はレンタカーを予約をしに行くだけだから、とりわけ朝早くから起きる必要もない。

 起床後、洗濯機のあるところへ行き昨日から入れっぱなしだった洗濯物を乾燥機の中にぶち込んだ。その後キッチンへ行き朝食を作りにいった。メニューはありも変わらず、ハムエッグ、リンゴ、ヨーグルト、マフィンとコーヒー。ラウンジのテーブルに昨日知り合った、名古屋の女性Iさん、ピンクのTシャツを来てたOさん、札幌から来てたAさんが居たので、一人で朝食を食うのも寂しいから、ご一緒させていただくことにした。Oさんが俺に、延泊できましたか?と尋ねてきたので、まだ取れてないと応えた。そうだ、今日ベッドが取れなければ、ここを経たなければならないのだ。そう考えると憂鬱になってきた。キャンプ道具をもってきてるので最悪キャンプ場に行けばいいが、車がないのであの重い荷物を持って歩かなければならない。ヒッチハイクで行くかいろいろと頭の中でどうするか考えた。悩んでる間に、OさんとAさんはトラムウェイのロープウェイの時間を調べる為に、Iさんはハイキングに行く為にみんな出かけていってしまった。

 食後、再びフロントに行ってもう一度延泊できるか確認をしにいったら、運良く一つキャンセルが出たので、めでたく延泊が出来ることになった。何事もめげずに頑張ってみるものだ。延泊が決まったので悩みが吹き飛び、ほっと一安心をした。今日はレンタカーの予約をすませたら、のんびりとジャスパーで過ごすことに決めた。でも、ちょっと心配な部分もあった。レンタカーが借りれるかどうかだ。夏場のカナディアンロッキーはまさにベストシーズンであるから、混み合ってるのも予想してた。でもあまり、前もって予約予約というのもがんじがらめになったような気がして正直面白くない。いきあたりばったりも面白いのではあるが、その反面、思うようにはかどらないこともしばしばある。どれも一長一短だ。あまりあれこれ考えてるとキリがないので、なるようになれと考えることにした。

 昼前のシャトルバスに乗るまでの間、ユースの庭で一人ぼーっとタバコをふかしていると、とある女性が手のひらにコインを見せながらタバコを1本売ってくれと俺のところにきた。ジャスパーではあまりタバコくれくれ君がいないから、1本彼女に渡してやった。金はいらんと言ったが、彼女としてはそういった行為は出来ないらしく強引に俺のところに金を置いてきた。しょうがないからもう一本恵んでやった。彼女はオーストラリアからワーホリのビザでやってきたと話はじめた。ワーホリは日本だけかと思っていたけど、ワーホリで提携している国では相互に、そのビザで来れることをはじめて知った。彼女はこの後、目の前にそびえ立つ、ウィスラー山のハイキングに挑戦すると言っていた。でも昨日のホースバックライディングで股の下が痛くて仕方がないとぼやいていた。俺は昨日ドイツ人のおっさんから聞いた所要時間を彼女に教えてあげた。タバコを吸い終えると彼女は「じゃ、いってきます。」と言って、森の中に消えていった。

 バスの時間までまだたっぷりあるから、ユースの庭先で走り回るリスを見ながら時間を潰すことにした。リスは蚊、羽虫や蛾の死骸をエサにしてあちあらこちら走り回っていた。ここではシマリスは見かげず、明かリスが非常に多い。そしてエサが豊富なせいなのか、子ウサギのように体型が以上にでかい。

 ボチボチシャトルバスが停まるユースの裏側にいこうとすると、先ほどのオーストラリアの女性が森の中から辛そうな表情をして現れた。「おい、どうしたんだ?」というと股下の痛みが、ひどいらしく歩けないという。もうすこし休憩してから再チャレンジすると嘆いていた。そういえば、昨日のロンドンからやってきた女性もホースバックライディングで股下が痛くてたまらんとぼやいていた。俺は馬には乗ったことはないが、なんとなくわかる気がりる。バイクに乗ってよく旅に出たが、1時間も乗ってるとケツが痛くてしかたがない。バイクのシートには一応クッションが効いているので次の日まで痛みを引きずることはないが、あの硬い鞍の上に何時間も乗ってれば、それ以上の痛みが増すに違いない。これから、ホースバックライディングに挑戦される方は肝に銘じた方がいいと思います。

 ユースの裏手にあるシャトルバスの停留所でバスを待ってると、バスがなかなかやってこない。いっしょに待ってたイギリスからきた青年が話し掛けて来た。
「今日はどこに行くのかい?」
「レンタカーの予約さ、お兄さんはどこに行くの?」
「ラフティングだよ。」
「いいな、アサバスカ川とサンワプタ川のどっちに挑戦するの?」
「サンワプタ川だよ。」
「すげぇな。かなりハードなコースと聞いてるけど。俺も挑戦したかったけど諦めた。一度もラフティングをやったことがないもんで。お兄さんはやったことがあるの?」
「ああ、以前一回だけしかないよ。」
なかなか冒険心のたくましい青年であった。彼は駐車場にいた、韓国人グループを指差して、
「彼らも君と同じ日本人グループじゃないのか?」
「いや、彼らは韓国人だよ。」
「韓国か。キムチが有名だな。」
「おお、キムチを知ってるのか?スパイシーな食べ物だよ。」
「ああ、食ったことがある。結構美味かったよ。」
イギリスでキムチが食えるなんてしらなかった。

 シャトルバスに乗って、ジャスパーのダウンタウンに到着した。ジャスパーの街中には4つのレンタカー会社があったので、一つ一つ回って値段とシステムを聞きまわることにした。まずは、ジャスパー駅構内。ここにはNational Rent a CarとHeatzがある。まずはナショナルのカウンターで料金とシステムを確認。一応今日の予約であれば車は借りれることができるとわかった。カウンターのスタッフにちょっと考えさせてくれといって、隣のハーツのカウンターに行って確認しにいった。ここでも車の方は大丈夫だとわかった。車が借りれることがわかれば、あとは値段だ。詳しいサービス内容は良くわからんが、値段に関しては各社によって分かれている。今のところはナショナルが安い。3番目にAVISに行って見た。ここはガソリンスタンドと併設されていて、中に入ってみるとデスクにスタッフが誰もいない。おまけに店内には誰もいないではないか。しばらく待って、スタッフの一人がやってきたのを見計らって声をかけてみた。
「すいません。車借りたいんですけど、値段について教えてください。」というと、忙しいのかそのスタッフは面倒くさそうに応えてくれた。最初の2件のレンタカー屋はメモ用紙に値段や保険について丁寧に書いて教えてくれてなかなか対応は良かったのだが。しょっぱなに聞いた値段が高かったので、俺も借りる気はしなかったが、対応がなんだか悪いのでちょっとむかついてきた。おまけに、
「予約しても、満杯だから借りれないぞ!」と怒った口調で言い放ったので、俺も
「誰が借りるか!」と笑いながら、日本語で言い返した。一応表情は明るく言葉は汚く、日本語だからどうせ相手も何を言ってるかわかるまい。対応の悪い店員にはこれが一番いい。最後はBadgetに行った。ここの店員も丁寧に名詞の裏に料金や保険などを書いてくれて丁寧に説明をしてくれた。25歳か26歳以上でないと借りることは出来ないよといわれたけど、俺が34歳です。と言ったら、笑いながら「あら、ごめんなさい。それならば問題ないわね」と言った。せっかくなんで料金表を下記に提示しておきます。

会社名
料金/日
無料距離/日
LDW/D
オーバー/km
National
50C$
200km
19.95C$
23¢
Hearz
53.95C$
100km
19.95C$
23¢
AVIS
60C$
150km
23C$
20¢
Budget
52.99C$
150km
17.95C$
23¢

(2002年7月当時タイプは全てコンパクトカー)

 ガイドブックに乗ってるようなフリーマイレージというシステムはどこにも無かったのが残念であったが、とりあえず値段を見比べて一番最初に尋ねた、ナショナルにすることに決めた。カウンターに再び出向き借りる手続きを行った。国際免許証やパスポートの提示をしたりで結構時間がかかった。
「あなた、英語は読める?」
といわれ細かい英語でかかれた同意書が渡された。
「まあ、なんとか読めます(辞書を使えれば...)」というと何か問題が起きた時の注意事項が全てここに記載されてるからなくさないようにとアドバイスをもらった。最後にどこに行くのかと尋ねられ、アイスフィールドパークウェイを走る予定ですといったら、ドライブマップをよこしてくれた。明日10:00にもう一度ここに来て、明々後日の18:00まで戻ってくることといわれた。デポジットで400ドルも取られてしまった。まあこれは無事戻ってくればちゃんと返金されるので心配はないが、気分的に金額をみると少し凹んでしまう。手続きがようやく完了し、
「じゃ、また明日来ます。」
といって、レンタカー屋を出た。しかし一旦忘れてたことがあったので再びそのデスクに戻った。どんな車なのか一応見ておきたかったのだ。さっきのスタッフに
「すいません。どの車か見たいんですけど」
というと、スタッフは車のカタログを取り出してこれだと教えてくれた。クライスラー社のNEONという4ドアタイプセダンの車であった。排気量は確か1600CCクラスだったと思う。
「了解!」
といって今度こそレンタカー屋を後にした。

 「やれやれ。」とようやく今日のやることが終わった。無事車も借りることができたので一安心だ。後はもうすることがない。のんびりと過ごすことにした。安心すると腹が減ってきた。昼飯はまだ食ってなかった。もう13:00をとっくに過ぎていた。特に食いたいものはないので、マクドナルドに寄った。店内は結構混みまくってて注文するのに時間がかかった。メニューはビッグマックのセット。何度も食ったが、俺にはこれが一番腹いっぱいになって丁度いい。店内のペーパナプキンが切れてたので、カウンターのお姉ちゃんに、ペーパーナプキンが欲しいと告げると「新聞が欲しいの?」と聞き返されてしまった。なんだか、やりとりしても通じないので、空っぽになってるペーパーナプキンをつめるための銀色のボックスを呼びさしたらようやく意味が通じた。「後でつめるからちょっとまってて」と言われて俺は席に戻った。細かいことではあるけど、こっちのファートフード系のフライドポテトはケチャップをつけて食べるからどうしてもペーパーナプキンが必要になってくる。やがて店員がペーパナプキンを詰め替えると、店内の客は待ってましたといわんばかりに、その場所に詰め寄ってきた。

 食後は観光案内所の前にある、ちょっとした広場のベンチに座ってたそがれまくった。その広場は草むらになってるので、寝っころがって読書をしてる人、フリスビーで遊んでる人など様々な人たちが居た。日差しは強いけど、風がふくと結構涼しいのでそんなに苦にはならない。おまけに太陽がちょっと雲に隠れただけで、とたんに気温が下がりまくる。暑いのか涼しいのか寒いのか忙しい気候だ。サスカトーゥーンのミーンワシンーバレーでも同じようにベンチに座ってたそがれてたが、このように旅でぼーっと過ごすのはとてもいいと思う。観光も大事だが、体を休めるのも大事だ。

 しばらく、ぼーっとしてたら観光案内所からユースで知り合ったOさんがやってきて声を掛けてきた。
「何してるんですか?」
「いや、ぼーっとたそがれてるだけ。今日の予定であったレンタカーの予約も終わったし、やることがないので。時にはこういうふうにゆっくりすごさないと。」
彼女は今日、先日知り合ったカナダ在住のブラジル人といっしょにマリーン峡谷を観光し、おまけにジャスパー最高級の「ジャスパー・パーク・ロッジ」で昼食をごちそうになってきたと言ってきた。
「 あんな最高級の施設で食事ができるなんてなんとうらやましいことだ。俺なんかマクドナルドだよ。ハハハ...」
彼女はその後、明日のホースバックライディングの予約をするため観光案内所に立ち寄ったというわけだ。そして一旦次の宿泊予定であるエドモントンのユースに予約を入れるため、電話をかけにいき、また俺のところに戻ってきた。彼女も今日の予定が終わりすることがないそうだ。ベンチに座りながら二人で他愛もない会話をした。Oさんはカナダに来る前はオーストラリアにもワーホリで行ってたそうだ。かなり田舎の所にも放浪をしてたらしく、野グソや野ション?(立ちション)も経験し、おとなしそうな外見から想像もつかない程ワイルドな人で俺はえらく感心してしまった。

 そのうち話をしてる中でこれからウィスラー山に行くことになった。彼女も朝トラムウェイに確認をしに行ってて行こうと思ってたらしく他に誰も行く人がいないから迷ってたみたいであった。次のシャトルバスは16:30。これに乗っていけば余裕で間にあう。シャトルバスに乗る前に酒屋に寄った。昨日Oさん、Iさんと三人で飲み会をしたいねという話がでてたのでそれも実行することにした。安いワインを2本購入し一旦ユースに戻った。ワインを冷蔵庫に放り込んで、二人でトラムウェイまで歩いていった。歩きながら、いまさらになっておたがいに自己紹介を行った。昨日であって今に至るまでまだ名前すら知らなかったのだ。

 トラムウェイでロープウェイのチケットを購入し、チケットに書かれているナンバーのアナウンスがあるまで待たされる。


  これがトラムウェイのゴンドラです。

これがチケットです。


 アナウンスがなり、ゴンドラに乗り込む。ゴンドラ内は乗客で満杯だ。一気に上を目指してゴンドラは走り出す。ウィスラー山は中腹までしか木々がない。あとは灰色の岩が剥き出しとなった岩山だ。ロープを中継する鉄塔のようなところを通り過ぎるとゴンドラはガクンとゆれたので乗客が一瞬どよめきたった。

 10分ぐらいで、頂上付近にある駅にたどり着いた。ゴンドラから降りると風が強く結構寒い。


 ゴンドラ頂上付近駅からみえたジャスパーの街並み。ジャスパーに来たらウィスラー山のゴンドラは是非乗っておきたいスポットだ。


 俺はここだけで十分満足であったのだが、Oさんは違ってた。この先にある頂上まで行きたいらしく、
「もちろん、ここで終わりでなく頂上まで、行きますよね。
「はぁ?行くの〜。まじ?」と不満そうに言っても彼女は許さなかった。「行きますよね。」の一言でしぶしぶ後をついていくことにした。ロープウェイの駅から、少し歩くととてつもない坂道が続いている。10分も歩くと、既に息があがってくる。おまけにとてつもなく寒い。風が強いのだ。俺の服装は、Tシャツの上にフリースの素材で出来たパーカーのみ。フリースは保温性は優れているが、防風性はまるでないのである。吹き付ける風が体の芯までつきぬけて辛すぎる。休憩をこまめにとりながら、なんとか頂上までたどり着いた。所要時間は30分くらいだ。


ウィスラー山頂上にあった道標。カナダの国旗がお子様ランチに乗っかってるような感じであった。周りに刻まれてる文字は周辺の山々の名前が記載されている。


 30分という短い移動距離であったが、頂上から眺める景色はとてつもなくすばらしかった。ロッキーの山々が360度見渡せるのである。




 山頂から撮った景色。灰色の山々がどこまでも永遠に続いてる感じであった。


 頂上付近はちょっとした広場のようにフラットな地形であった。ここで適当に写真を撮りながら、時間を潰してると、Oさんは更に先のほうまで行きたいらしくまた「行きますよね。」発言で俺を引き連りまわした。もう彼女の言葉には逆らえないので、そのままついて行く事にした。何もない不毛のトレイルをトボトボと二人で歩いた。トレイルの終点は断崖絶壁の崖の上であった。これ以上はもう進めないので、写真だけとって再び頂上まで引き返すことにした。ちなみにここまでは片道1時間ぐらいであった。

 風は相変わらず強く寒い。ビュービュー吹きまくってる。あまりにも風が強くて仕方がないので、大きな岩陰に隠れて景色を楽しむことにした。時間が20:00を過ぎてもロッキーはまだまだ明るい。ふとしたことで夕日に染まる景色を見たくなってきた。確かに外は寒いがここまできたら、毒を食らわば皿まで、まさに一蓮托生といったほうがいいか。この意見は二人とも文句なしに一致した。問題は時間だ。夕焼けの時間帯まではあと2時間近くもある。このままここでとどまるにはあまりにも寒さで辛すぎるのだ。そんなわけで一旦ゴンドラの駅まで下山をして、そこから再び頂上まで行くことにした。下山は下りではあるが、あまりにも傾斜度がきついので、滑り落ちないようにカニ歩きのようにしながら慎重に降りた。

 下山途中、どうやってここまでたどり着いたのか知らんがMTBで来ている若者が2名ほどいた。Oさんに「まさか、この山をチャリで下るんじゃないだろうな。」と話し合った。彼らはまさにこの山をチャリで下ろうと準備をしてるようだったので、しばらく彼らの様子を見てみることにした。本当に下るような気配だったので、二人して、
「やっぱ西洋人は発想が違うな。日本だったら考えられん発想だよ。」と意見が一致した。



ウィスラー山をMTBで駆け下りるクレイジーな若者達。写真ではそうでもないが、実際はかなりの傾斜度である。


 彼らがいざチャリで下り降りた瞬間、一人の女性が叫び始めた。
「見て!こんな所を自転車で駆け下りるなんて信じられないわ、狂ってる!」
それを聞いた瞬間なんだか笑ってしまった。最初は日本人の感覚としては彼らの行為はクレイジーな感覚だと思っていたが、西洋人の感覚でも同じであったのだ。クレイジーな若者はブレーキングを巧みにこなしながらゆっくりとチャリで下っていった。さすがにダウンヒルのようにスピードを思いっきり出しての下山はしなかった。そんなことをしたら、あの岩と砂利だらけのところでは一瞬で転んでしまったであろう。

 ゴンドラ駅構内はとても暖かく生き返ったような気分であった。駅構内は一階が土産やで二回にレストランがある。外の冷気で腹の調子がおかしくなり、俺は慌ててトイレに駆け込んだ。

 ここには灰皿があるから、また寒さを圧して外で一服を楽しんだ。すると、一人のインド系の外人さんが俺に声をかけてきた。
「日本人ですか?」
その言葉は日本語であった。いきなり外人に日本語で声をかけられたので俺は一瞬驚いてぽかんとしてしまった。反射神経で英語で応答しようとしたけど、日本語で
「そうですけど...。えっ?どちらからこられてんですか?」
「僕はパキスタン人です。」
「日本語上手ですね。」
「日本には10年ほど住んでたよ。」
どうりで日本語が上手い訳だ。彼は日本に10年住んだ後アメリカに1年住み、現在はカルガリーに移って1年ほど経つそうだ。彼は景色を見ながらこう語った。
「この景色はあれだね、群馬みたいだね。あと甲府。うん、あそこの景色に似てるよ。」
彼の日本語は確かに流暢ではあるが、どこで覚えたのかしらんが、タメ口流に語るのがなんだか気になって仕方がなかった。俺が、
「いやー、しかし寒いですねー。」というと
「何やってんの。山を登る人は皆言ってるけど。山の上は寒いんだよ。いろいろ着込まないと。こんなの常識だよ。」と言ってくる。一瞬カチンと頭に来たが、別に彼が悪いわけではなく、言葉の表現の仕方がイマイチなんだと自分に言い聞かせてここは抑えた。
「ははは、いやー知識不足ですいません。」
なんで俺が謝らなければいかんのかと思ったが、事を穏便に運ぼうとしてここはこらえることにした。そんな訳でしばらく、むかつく心境を抑えながらこのパキスタン人と会話をした。まあ、彼自信がむかつくのではなく、日本語の表現の仕方がちょっと引っかかる部分があっただけなので、ここは大目に見るしかない。まあ、面白いパキスタン人であった。

 寒いからまた駅構内に入って土産物屋をブラブラとうろついてたら、同じユースにいるロンドンから来た女性が居たので声をかけた。彼女はあまりの寒さにもう戻ると嘆いていた。

 21:15になったので、夕日のロッキーを眺めに再び山頂を目指した。夕方になるにつれ気温は更に下がってきたので、俺はトイレの洗面所に行き、空のペットボトルにお湯を入れて湯たんぽ代わりにして、持ち歩くことにした。これをパーカーのポケットに入れて手がかじかむ都度握りしめた。少しでもいいから暖をとっておきたかたのだ。ゼーハーゼーハー息を切らせながらまた山頂までたどり着いた。





 ちょっと雲が多かったので、思いっきり夕日に染まる写真が取れなかったのが残念...


 山頂に着くと、見渡す山々の岩肌が徐々にオレンジ色に染まりつつあった。ちょっと雲が多くて、それらが影になり全体がオレンジ色に染まることはできなかったが、それでも所々オレンジ色に染まる山肌はため息が出るほど綺麗であった。
「うーん、すばらしい景色だ。」
これしか言葉が出なかった。二人で何度もため息をつきながら、ただただその景色をひたすら堪能した。ロッキーにはいろいろな見所が沢山あるけど、たった一つだけ選ぶとしたら、絶対にこのウィスラー山をお薦めする。但し夕日の時間帯だ。寒くて凍えそうになるくらい辛いけど、その辛さを吹き飛ばしてくれるくらいにすばらしい景色を見れる権利を得ることができるのだ。

 何度ため息をついただろうか?ずっとここに居続けたい気もあるが、現実ロープウェイの最終時間がせまってきたので、下山することにした。


 

ロッキーの山に沈む夕日を撮ろうと思ったけど、雲に隠れて撮れませんでした...


 下山をしながらも、名残惜しむように景色を堪能した。そして最終のロープウェイに乗ってウィスラー山を後にすることにした。

 ロープウェイを降りると、凍てつく寒さの山頂とはうって変わって暖かかった。
「はぁー、あったけー。」
なんだか生き返ったような気分であった。その後ユースまで歩いて戻ったのだが、途中道路脇の森の中からガサガサと音が聞こえてきた。
「えっ、何?今の音。」
とOさんがおびえながら叫んだ。彼女は動物が苦手のようで、ちょっとした音にも敏感であった。
「ん?多分リスじゃないか?」
と俺が応えた。野生の動物は夜になると行動が盛んになるらしいと、何かの本に書いてあった。現にこの道の下の方で2日連続ブラックベアが出没してるのを見てる。それにユース付近でつい先日コヨーテが現れてる事も聞いていた。俺は空のペットボトルを取り出して、それをバンバンと叩きながら歩くことにした。音を出すことによって、予め動物達にここに人間がいるんだというシグナルを出す為だ。こうしておけば、不意に動物と遭遇する確率も減るだろう。

 無事動物にも遭わずユースにたどり着いた。ユースの庭では誰かがばーべQをやっていて、にぎわっていた。さっき山頂であったロンドンから来た女性も居て、「山頂は寒すぎて、すぐ戻ってきたわ。」と言ったので、「確かに寒すぎだね。でも俺は夕日を見るために4時間も山頂に居たよ。」といったら、
「信じられない!」と驚いた表情をしてた。

 ユースの中に入ったら更に暖かかった。キッチンにIさんが丁度夕食を終えたらしく食器を洗ってたので、「あったけーな、ここは。」と言ったら、俺がウィスラー山頂で凍えそうな経験をしてたのを知らなかったために、理解しがたい表情をしてた。ついでに飲み会を行うからと伝え、その後速攻でシャワーを浴びに行って来た。ちなみにここのユースのシャワー室には水を節約するために一人5分で完了すると事と注意事項が書かれている。5分以内で頭と体を洗えということだ。どう考えても不可能に近い要求事項なので、あまり守ってる人はいないと思う。

 シャワーを浴びた後、遅い夕食の準備に取り掛かった。今日の夕食は即席ラーメン。Oさんも同じ即席ラーメンなので、二人で作ることにした。途中彼女は顔を洗いたいと言い出したので、ナベの様子を俺が監視することにした。一行に戻ってくる様子がないから、ついでに作っておくことにした。ドンブリがないので、茶碗みたいな食器にラーメンを移し変えた。彼女が戻ってきた時にはラーメンはすっかり伸びきった状態になっていたが、何故か彼女はその伸び切ったラーメンが好きだという。麺がスープを思いっきりしみこんでしまって量が多くなるからだといっていた。なんだか変わった人だ。

 夕食後3人で宴会を開いた。Oさんがフリーフードから、いろんな物をゲットしてきた。リンゴ、シリアル、ベーグル、マシュマロ、お菓子、食パン、ベビーキャロット等など。フリーフードとは、ユースの宿泊者が勝手に使っていいよと置いていった食料の事だ。冷蔵庫の一番上の棚はたいていがフリーフードのコーナーとなっている。たまに賞味期限切れのものがあったりするから注意は必要だけど。これから長い海外生活を行うにあたって、節約なことをするには欠かせない技であると思った。あまりにも獲得した食料が多いので、リンゴ、ベーグル、シリアルをおすそ分けしてくれた。酒のつまみももちろん、フリーフードでゲットしたお菓子であった。

(つづく...)

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