*7/11クリプトレイクハイキング(晴れ)*
昨日はぐっすり眠れたので、目覚めはなかなか良かった。今日はクリプトレイクに行くので、おちおち朝寝坊も楽しむことも出来ないから目がさめたらすぐに起きることにした。同部屋のオージーグループ達は、今日ここを発つので朝から出発の準備に追われている。ベッドから起き上がって、部屋を出ようとすると、例のガタイのしっかりしたオージーの青年が部屋のカギをなくしてしまったから、見つかったらフロントに届けて欲しいと頼まれた。快く承諾し俺も朝食の準備をするためキッチンに向かった。今日の朝食は食パンにピザソースを塗ってチーズを挟むだけ。あと紅茶。
ところで何でピザソースを使ってるのかというと、結構味がスパイシーなので食が進むからだ。あと、バスタソースとしても代用が出来るからである。これは8年前にカナダに行った時に得た教訓であった。この時は最初普通のパスタソースを使用したが、どうも味気がなくパンに塗ってもあまり美味くなかったのだ。そこで試しにピザソースだったら美味いのではないかと思って試しに使ってみたら、なかなか美味いのでそれ以来ピザソースを使うようになってしまったからである。一つの物でいろんな物に代用できるアイテムは荷物を減らす意味でも重要なこととなる。
食後はキッチンの裏口にでてタバコを吸うことにした。例のオージー達が荷物をひっきりなしに運んでる姿が見える。彼らは大きなバンをレンタカーで旅してるようだ。例の青年が、笑いながら別れの挨拶にやってきた。俺が、
「もう出発かい?」
「ああ、カギの件よろしくな。」
「了解。ところでこれからどこに行くの?」
「バンフだよ。」
「おー、バンフかー。8年前に行ったことがあるよ。」
「マジ?どうだった?」
「うん、すばらしい所だよ。きれいな山、湖。お勧めだよ。気をつけてな。」
「ありがとう。君もな。」そういって、彼ら一行は慌ててバンに乗り込んで、ここを去っていった。
「さて、俺もハイキングの準備をしないと。」と思い、部屋に戻って支度をはじめた。クリプトレイクに行くには再度昨日乗ったボートに乗らなくてはならない。出発時間は9:00である。だからユースを8時ちょっと過ぎには出て行かなければならない。デイパックにカメラ、三脚、タオル、ガイドブックを詰め込み準備完了。再びキッチンに行って。昨日凍らせたペットボトルを取り出した。案の定カチンコチンに凍っている。これならハイキン中に少しづつ解けていつも冷たい水を飲むことができるちょっとした自分なりのアイデアであった。いつでも出発できる状態になったが、まだ時計をみると30分くらい余裕があったので、しばし紅茶でも飲んでくつろぐことにした。すると、ニュージャージーからやってきたおばさんが来て、
「昨日お願いした息子と一緒に行ってもらう件だけど、他の人に頼んだから。」と言ってきた。正直俺も昨日の息子さんが首を横に振る姿をみて、あまり期待をしてなかったから、
「(やっぱりな)ああ、わかりました。いいですよ。」と返事をしておいた。息子さんにしてみれば、言葉もロクにしゃべれない変な日本人と行く気はしないだろうと思った。きっと息子さんはあの後、「日本人なんかと行きたくない」と、そのお袋さんにだだをこねたに違いない。
8時を過ぎたので、ユースを出ることにした。途中コンビニで昼食用のサンドイッチと携行食のチョコレート、ベアベルとエマージェンシーホイッスルを買うことにした。単独でのハイキングだから、動物には余計に用心しておこうと考えたからである。しかしレジに行くと、俺の隣にいた客が、
「おお、ベアベルなんて買うのか?」とちょっと人をコバカにした感じで言ってきたので、俺もちょっとカチンと来て
「うっせーな、このジジイ大きなお世話だよ。」と日本語で文句をいってしまった。当然相手は意味がわからいからケンカになることはない。レジの店員は、
「いやいや、いい心がけだ。どこに行くのかい?」と聞いてきたので、
「これからクリプトレイクに行くんです。」と答えると、
「おお、気をつけてな。あっちこっちでクマの目撃がされてるから。」と笑いながら教えてくれた。しかしこの言葉を聞いて俺は少々ビビッテしまった。
「(マジ?クマがあっちこっちででてるの?ベアスプレーでも買っていこうかな。)」と考えたが、ベアスプレーは結構値段が高いのであきらめることにした。
ボート乗り場に着くと、これまた乗客達で結構込み合ってる。チケット売り場に行
って購入をしに行く、行き先を告げて、且つ帰りの時間もいわなければならない。最終便は17:30なので迷わずそれにすることにした。正味8.5時間で戻ってこなければならない。ガイドブックには往復で約6時間と記載されている(昼食時間は含まれてない)。正直この時間内に戻ってこれるのか不安であった。
ボートの出発まで待ってると、ふとどこかで聞き覚えのある、言葉が聞こえてきた。そう「日本語」である。よくみると20人位のツアー客がいるではないか。ここウォータートンに来て初めて見かけた日本人であった。海外ではしょっちゅう日本人を見かけると嫌になってくるけど、たまに見かける日本人はなんだか、安心した気分にな嬉しくなってしまうのだ。
9:00近くなったので、ボートに乗船することになった。今日はクリプトレイクなので、10分位で着くから、とりわけボートの席を慌てて確保する必要もなかった。一番後ろの座席が空いてたので、そこに座ることにした。例のツアーできた日本人もどっと乗り込んでくる。たまたま隣に座った日本人に写真をとってもらおうと日本語で話し掛けてお願いしたら、なぜかビックリした表情をしてたのが可笑しかった。ボートが出発すると、ガイドの男性が、
「今日は日本人が多いなー。このツアーの添乗員は誰ですか?おっ、君ね。申し訳ないが、私の言ってることを通訳をお願いします。私は日本語がしゃべれないので。しゃべれても、ソニー、ミツビシ、カワサキ、トヨタ。」などと企業名をただ言ってるだけであった。でも船内は爆笑の渦となってしまった。その後ガイドさんは、
「この船は今日はクリプトレイクにハイキングに行く人たちを一旦降ろしますので、ゴートハウントにいかれる方は間違って降りないように。ところで今日のクリプトレイクに行く人たちは手を挙げてみて。」
といわれ、俺も手を挙げたが、ざっと数えたら17人位の人数であった。昨日は5人位しかいなかったとの事。
出発して10分位でクリプトレイク行きの桟橋に到着した。俺も降りようとすると、先ほど買ったベアベルが「カランカラン」と結構響きわたってしまってる。それを聞いた小学生位のガキに
「うるさい」
といわれて、またまた大人気なくカチンと来てしまった。
「なんじゃ、このガキ!」
と日本語で怒鳴りつけてしまった。でも笑顔で怒鳴ったので相手は俺が怒ってるのに気づかない。よく海外でやってしまうのが、笑いながら日本語で文句をつける技。いくら日本語が通じないといっても、あまりにも感情を剥き出しにしてしまうと、雰囲気で悟られる可能性が大きいので笑いながら、文句を言うのが宜しいのであります。何故か海外を旅をしてると、特に店で買い物とかレストランで食事なんかをしてる時に、うまく言葉が通じないと店員から露骨にいやな態度をされる時がしばしばあります。こんな時に大抵この技を使ってしまいます。笑いながら「てめぇ、態度悪いな!」とかいうと少しは気が治まります。皆さんもやってみてください。相手が日本語を全く理解してないという保障はできませんが…。
ボートから降りると、そこはキャンプ場になっていた。キャンプ場といってもとても質素な設備でトイレがあるのみ、後は丸太が何本か「ゴロン」と横たわってる程度です。オートキャンプ場みたいに、区画もありません。各々、準備運動をしたり、虫除けの液体を体中に付けまくっている。俺もピンチャークリークで買った「モスコル」という虫除けの薬を取り出し、肌が露出してる所とTシャツの上にも満遍なく塗ることにした。しかし、この薬においがとてつもなくきつい。今までかいだことがない匂いなので文章でどう表現したらいいかわからない匂いである。

(いよいよ、出発だ。片道8km。往復16kmか〜。数字を見ただけで疲れそうだ...)

(いろいろごちゃごちゃと書かれてるが、英語とフランス語なので全部読む気はありません。外人さんも呼んでませんでした)
最初のコースは、森林の中を緩やかな傾斜を登っていくだけである。樹木に日光がさえぎられているので、とても涼しいから、歩いていてもそんなに苦にはならない。しかし30分も歩いていくと段々息切れしている自分があった。
「あー、俺も年だな〜。」などと考えてしまう。
1時間程歩いただろうか、トレイル上を横切るように小さな小川が流れていた。そこでは、多くのハイカー達が休憩をし川から水を補給していた。一人だけ、濾過用のポンプを持ってる人がいたため、多くの人がその人からポンプで濾過された水を水筒に入れていた。ポンプを持っている人はみんなからの要求にこたえていたが、結構重労働のようなので途中からセルフサービスに変わっていった。そんな様子を休憩しながらじっとみてると、一人の女性が俺に、
「あなたは水は大丈夫なの?」
と話し掛けてきた。このハイキングでは既に4本のペットボトルを持ってきてたので、お礼をいいながら丁重にお断りをした。水はまだまだ十分に確保してある。そこの小川で10分位休憩して、再び歩き始めることにした。周辺にはまだまだ多くのハイカー達も一緒に歩いていたが、俺のペースが遅いので、どんどんと抜かれていつのまにか、最後の方になってしまった。「競争じゃないんだし、のんびり行くか」と自分を言い聞かせながら、ひいこらいいながらトレイルコースを歩き続きて行った。

(クリプトレイクハイキングの途中。樹木が急に減ってくると剥き出しの岩山がそびえ立っていた。)
しばらく森林の中を歩いていくと、いきなり目の前に雪渓が立ちはだかっていた。

(いきなり雪渓が...。こんなところどうやって登っていくんだよ...)
昨日の観光案内所に書かれていた、「所々のトレイルが雪で覆われている。」というのを思い出してしまった。
「うげっ。こんな所どうやって歩いていくんだよ。アイゼンもないしなー。」
としばらく雪渓の前で躊躇してしまった。後ろから、家族連れの一行がやってきたの、その父親らしき人物に、
「俺、アイゼン持ってないけど大丈夫なのかな?」
と話し掛けると、その父親も
「俺も、そんなもんもってないよ。ガハハハハ。」
と笑いながら、そのままスタコラと雪渓の中に足を踏み入れ登っていくではないか。しょうがなく俺もその後をついていくことにした。人の足跡を頼りに、同じところを歩くことにした。その方が雪が踏み固められて、比較的歩きやすいからだ。時々、未踏の部分を歩いたりすると、ひざ位まで「ずぼっ」と雪の中に足がめり込んでしまうので気をつけなければならない。雪の中はとても歩き辛いのでとても体力が消耗してくる。斜度も結構きつい。でも万が一滑り落ちても擦り傷程度ではあるが、それでも恐怖心は避けられない。まともに歩くとバランスが結構崩れやすくなってくるので、体を横にしてカニ歩きみたいにしながら、登っていくことにした。時間はかかるがこれが自分にとって、もっともバランスよく歩けるスタイルとわかったからだ。

(あ〜、やっと登り終えた。写真に写ってるのは例の小学生の家族連れの一行)
雪渓を歩き終えると、樹木が一気に減り、薄茶色の岩肌のコースへと変わっていった。登りもだんだんきつくなってきている。なんだか休憩する回数も多くなってきた。しばらくトレイルとスイッチバック状に歩いていくと、トレイル上を横切る小さな小川に出くわした。小川といっても山の雪解け水が流れてる程度で、適当に大きな石をわたっていけば容易に超えていくことができる。ここの小川にも何人かのハイカーが休憩してたので、俺も休むことにした。一人で休憩するより周りに人がいたほうがなんとなく安心感が出てくるからである。小川のすぐ上流方向に大きな雪渓のトンネルができていた。トンネルの上部から雨の様に雪が溶けまくっている。そんな雪解け水であるため、小川の水はとても冷たい。ハイカーの誰かが、大きな岩を舐めるように流れている水のところに腕をつけていたので、俺もマネをしてみたが、これがまたエラク冷たくて気持ちがいい。火照った体を冷やすにはとてもいいのである。「うっひょー。」
と甲高い声をはりあげると周りのハイカー達にはゲラゲラと笑われてしまった。

(ちょっくら、コースを振り返ってみてみました。)
小川で火照った体を冷やしたが、歩き始めるとまた体が火照ってきてしまった。正直日差しが強くて暑くてたまらんのだ。2組の家族連れのハイカー達と抜きつ抜かれつで歩いていくうちに、彼らと段々会話が増えていくようになってきた。ハイキングの往路の後半になってくると、体が完全にバテバテ状態になって、15分置き位に休憩をするようになってしまった。小学生の子供達と来ている、家族連れのハイカーがそんなペースの遅い俺の事を待ってくれながら一緒に歩くようになってきた。しかし彼らは、俺が追いついてくると、歩き始めるのでなかなか一緒に歩くことが出来ない。

(トンネル付近のトレイルコース。この写真は絵葉書から抜粋)
ハイキングコースも大分終盤に差し掛かった頃、トレイルコース岩の中に吸い込まれるような形でがみえなくなってきたのだ。ここがこのハイキングコースの目玉であるトンネル越えだ。稜線伝いをV字に折り返していくと、ハシゴが見えてくる、そこがトンネルの入り口である。V字のトレイルコースの幅はとても狭く、30CMくらいしか幅がないのだ。右側をみると、斜度のきついガケである。落ちたら死にはしないが、ケガは必至だ。なるべく左側の岩壁の方に重心を寄せながらあるいていった。ハシゴ場に到着すると、ハシゴの高さがトンネルの入り口までの2/3位しかない、跡は凸凹した岩を少しよじ登らなければならない。登り終えたら、安堵感でしばし休憩をとる。例の小学生の家族連れにもようやく追いつき、「疲れた〜。」といいながら、水分とチョコレートを取ることにした。トンネルの入り口は岩陰に隠れて日陰の状態だからとても涼しい。休憩にはもってこいの場所である。トンネルはとても狭く、立って歩ける状況ではない。かがみながら、よちよちと歩かなければならない。ガイドブックによると、人為的に作ったものではなく、自然に出来たトンネルとかいてある。しかし、まあよく見つけたものだと感心しながら狭いトンネル内を歩いていった。

(ここが、トンネルの入り口。中はとても狭い。)
トンネルをでると、右側はもう断崖絶壁の状態である。もちろん柵などはないので、落ちたら完全にあの世行きだ。幸いトレイルコースの幅もけっこうあるので、それ程恐怖心は湧かないが、なるべく右側をみないようにして歩いていった。すると再びトレイルコースがなくなっているのに気づく。
「あれ?こんどはどうやっていくんだ。」
と考えてると、左側の岩にワイヤーロープがついているのを見つけてしまった。
「うそ!まじかよ。こんな所をこのワイヤーにつかまって歩くのー。」
と一人つぶやいてしまった。もう目の前は完全に断崖絶壁である。落ちたら確実に死んでしまうレベルだ。そんなところをワイヤーロープ一本でどうやって行けというの?と考えてしまったが、ここまで来て今更引き返すわけにも行かないので、まずはロープにつかまり、凸凹した岩肌の足場を探しながら一歩一歩歩いていくことにした。幸いにしてその岩肌はかなり凸凹が激しいので、容易に足場は確保できるが、その確保の為にどうしても下を見なければならないから、恐怖心が必然と湧いてきてしまうのである。幅10cm位の足場を探しながら、ようやくそこをクリアーしたときは恐怖心でものすごい疲労感がでてきてしまった。考えてみればまた帰りも同じワイヤーロープの所を通らなければならないと考えるとそれだけでも憂鬱になってしまった。
「帰りもまた一苦労しなきゃならんか〜。」
と独り言をいいながら、クリプトレイクまで向かうことにした。
このあたりまでくると、かなり雪の量が多くトレイルのほとんどが雪に覆われたじょうたいであった。人の足跡を頼りに歩いていくしかないのである。やがてひたすら歩いていくと前方から、誰かが歩いてくるハイカーが見えてきた。既に、クリプトレイクに着いて、帰路に向けて戻っていく人たちである。ためし、クリプトレイクまで後どのくらいか聞いてみると、30分もすれば到着する距離だったので、最後の力を振り絞って雪の中を歩き続けていった。するとちょっとした広場みたいなところに出くわした。簡易トイレが設置されてるのがわかるのでおそらくキャンプ場であることがわかった。今まで人の足跡を頼りにしてきたが、この広場見たいな所では、あちらこちらに足跡があるので、どの方向に行っていいのかわからくなってしまった。周辺からハイカーの声が聞こえてくるので、ほぼクリプトレイクが間近なのは間違いない。倒木の丸太に腰掛けている夫婦にクリプトレイクの行き方を教えてもらうことにした、話を聞いてみると後は自分の行きたい湖畔に行くだけだとのこと、適当に近いところを教えてもらいその指示に従って行く事にした。湖畔に行くには、ちょっとした坂道を下ればいいとの事であった。相変わらず雪が多いので滑らないように慎重に雪の斜面を降りていった。樹木が開けると、目の前に大きな岩山と氷結状態のクリプトレイクが見えてきた。

(ようやくたどり着いた。クリプトレイク。ほとんど氷結状態であった。)
「おおー、すげー。」
これしか、言葉がでなかった。苦労して歩いた人にしかわからない感動である。湖にはトラウトが沢山住んでるとガイドブックに書いてあるが、ほとんど雪と氷におおわれているので見ることはできなかった。景色でも見ながら、昼食にしようと思い、どこか座れるところを探したがなかなか見つからず、その辺をウロウロしてたら、二人組みの女性のハイカーに、
「ここ、使っていいわよ。」
と丸太の倒木を勧められた。お礼をいい、遠慮なく座りながら、朝買ったサンドイッチをほおばることにした。サンドイッチはビーフ、チーズ、レタスがはさまっている。一緒に飲み干したスポーツドリンクのほのかな甘さが、疲れを癒してくれるように感じてきた。そばにいる、二人組みのハイカーは靴下も脱いではだしになって、丸太の上に寝転ぶような形でくつろいでいた。そのハイカーの一人が俺に、
「あなた、足、アウ?くないの?」
と聞いてきたので、
「は?」
と答えると、もう片方の人が、
「この人英語通じないみたいよ。」
と俺に尋ねてきた人にヒソヒソと忠告をしているのが聞こえてきた。
「(その位、わかるよ。)」
とむっと思いながら、尋ねてきた女性に、
「すいません、アウ?って何の意味ですか?。」
と尋ねたら、
「熱くないかと聞いてるの。ここまで歩いてきて足が熱くないかということ。」
「あ〜、はいはい、So Soね。」
と訳わからん返答をしてしまったら、その女性は急に笑い出し
「ははは、この人So Soだって〜。」
といわれてしまった。俺としては、
「まあまあかな。」
といった意味合いで答えたのだが、どうも違っていたようだ。やっぱり俺の英語力は
全然だめであるのを身にしみてしまった。
サンドイッチを食べ終わり、帰りのボートの時間のこともあるからあんまりここに長居が出来ないので、適当に写真を取って戻ろうと考えた。周りを見渡すと、近くに昨日、観光案内所でみかけたチャリダー(自転車で旅行してる人)が居たのでシャッターをお願いすることにした。お礼を言った後、ちょいと話し掛けてみることにした。
「自転車で旅行してる方ですよね。」
「そうだけど。どうして知ってるの?」
「昨日、観光案内所で見かけたもので。確かビアンキの自転車に乗ってるでしょ。」
「ははは、よく覚えてるね。」
そんな感じで、会話が弾んできた。このチャリダーはアメリカのミネソタからやってきてて、ジャスパーから自転車でアメリカのイエローストーン国立公園まで旅をするというつわものだ。もうかれこれ何ヶ月も旅してるという。俺もかつて自転車で旅したことがあるので、こういう方を見かけるとどうしても親近感が湧いてきてしまう。やがて彼もボートの時間を気にし出し、急ぎ足で戻っていった。

(景色がでかすぎて、写真におさまらん...@クリプトレイク)

(夏なのに一面は雪だらけ。岩山の向こうはアメリカ領土となる。@クリプトレイク)
「どれ、ぼちぼち行くかな。」
と俺もクリプトレイクを後にすることにした。雪の中を慎重に歩き進んでいき、またあのワイヤーロープの岩場の場所に出くわした。一歩一歩慎重に適当な足場を探しながら歩いていくが、帰りは後ろからも人が続けざまに来ているので、なんだか煽られてるかんじがして嫌でたまらない。トンネルをくぐり抜け、ひたすらトレイルを下っていく。基本的に行きと同じコースなので、景色的にはこれといって新たな発見はないから、ただただ歩くのみである。
帰りも途中で、行きに一緒に行動した小学生の家族連れ一行と再び遭遇し一緒に歩くことにした。彼らは休暇を利用して日帰りでウォータートンに訪れたそうだ。お互いにボートに乗る時間に間に合うように励ましあいながらトレイルを歩き続けた。帰路は下り坂で楽かと思ったけど、歩くたびに膝にくる衝撃があるのでけっこう疲労がたまってくるのが感じてくる。所々にある雪で覆われたトレイルを歩くときは、上り以上に神経を使ってしまう。ちょっとでも足場が悪いとスリップダウンをしてしまうからだ。俺は行きと同じようにカニ歩きで少しづつ下ることにした。
日差しは相変わらず強く、体が火照ってくるから、雪を丸く固めてそれを首筋や腕顔などにつけながら歩くことにした。雪の冷たさが一時的ではあるが、体を冷やしてくれるのでとても気持ちがいい。やがて往路での給水地点であった、小川に到着した。ここまでくれば後1時間でボート乗り場に着くので大休止を取る事にした。みんなで靴下を脱いで足を川の中に突っ込んで、体を冷やす。しかし、この水はとてもつめたく1分も足を突っ込んではいられないのだ。最初は「あー、冷たくていい。」とは思いながらも、段々と針をさすようなチクチクした痛みがでてきて、しまいには感覚が麻痺してしまうのである。そんな訳だから、川から足を出したり入れたりしないといけないのである。この時点でペットボトルに入ってた水は全部飲みきってしまったので、川の水で補給することにした。あまりの冷たさに、消毒液を入れずに飲んでしまった。本当はこれをやってはいけないのだが。普通は5分以上の煮沸が必要である。んなに見た目が綺麗な水でも上流で動物のし尿がまじってる可能性が高いからだ。飲み終わった後ちょっと心配になってきたので、デイパックの中から、消毒液を取り出し、ベットボトルに濃い目に入れておくことにした。この消毒液は水に入れた後10分から15分は放置しておかなければならないので、時間がたつまで待つことにした。その間、例の家族連れが出発の準備をはじめて、且つ俺の出発をまってるようだったので、悪いから先に行ってもらうことにした。
しかし、30分以上も休憩をしてしまうと、なんだかもう動く気分になれない。このまま岩の上に横になって昼寝でもしたくなってくる感じだ。とりあえず、15分位たったので、消毒液の入った水をゴクゴクと飲み干す。この消毒液を入れると塩素系のにおいがまじってくるので正直あまり美味くはない。まあちょっと濃い目に入れてしまったせいもあるから仕方が無いことではあるが。さっき飲んだ生水は胃の中で消毒してくれるだろうと安易に考え、出発の準備をすることにした。
体がバテてしまってるので最後の1時間はなんだかとてつもなく長く感じてしまった。完全に目がすわった状態でまるで夢遊病者みたいな感じで歩いてるのがわかる。時折樹木の間から見える湖がゴールが近いことを物語ってるので、それが唯一の元気が出る支えであった。朦朧と歩きながら、頭の中で、「帰ったらビールを飲みたい。いやその前にアイスクリームだ。うーん、アイスティーも一気のみしたいな。」
と考えながらあるく、その考えがだんだん言葉に出てきて、周りには誰もいないから、「ビール、アイスクリーム、アイスティー。」
とまるで呪文でもつぶやくように何回も繰り返しながら歩いてしまった。この時は何か楽しいことでも考えてないと、本当に歩くのが嫌になっていた心境であったのだ。
16:30を少し過ぎたあたりに、ボート乗り場に到着をした。あまりにもくたびれてしまい、何もやる気がせず、ただ丸太に腰掛けて「ぼけーっ」とするだけであった。ふと、周りをみると例の家族連れがいないのがわかった。小川で別れた後、そんなに時間が経ってないし、追い越しもしていない。16:00にボートの発着があるが、それに乗ってしまったのも時間的に無理がある。すると、トレイルから例の家族連れの女の子が両手をグリコのマークみたいに上に挙げて走ってくる姿が見えてきた。
「私が一番乗りよー。」
といいながらこっちに向かってくる。「あれだけ歩いてよく走る元気があるなー。」と感心してしまい、その元気さに敬意を表し、手を振ってあげたら彼女も笑いながらそれにこたえて両手で思いっきり手を振り返してきた。その親御さん達もあとから来て挨拶をかわした。話を聞いてみると、あの後、ヘルローリング滝の方を見にコースを変えたらしい。向こうも俺が一向に姿を表さないから、心配してたようだ。
ボートがくるまで30分以上時間があるので、みんなで桟橋にすわり、足を湖につけて涼むことにした。しかし、この湖の水もまたとてつもなく冷たく、一分も入れることができない。ずっと入れてると感覚が麻痺してしまうのだ。最後のグループが到着してきた、こちらは中学生位の子供の家族連れ。そこの奥さんが、あまりの暑さで体を冷やそうとしたのか、ボート乗り場に着くなり、いきなり湖に「ばっしゃーん」と飛び込むではないか。既に湖の冷たさを実感してた俺は、
「危ない、危ない。この水はとても冷たいよ。」
と叫んでしまった。心臓麻痺でも起こされたらそれこそ大変だからである。でもその奥さんは、非常に冷静で、
「冷たい、冷たい。」
といいながら、すぐに岸に戻っていった。しかし、まあ飛び込みたく気持ちはわからなくもないが。その内だれかがベットボトルに湖の水を汲んで、頭に掛けはじめた。みててとても気持ちがよさそうだ。そんな様子を見てると
「どうだ、君もやってみないか。いいぞ。」
といって、俺にペットボトルを差し出してきた。同じように頭から水をかけると、「シャキ」っとして気持ちがいい。そんなことを繰り返していたら、なんだかプールに入りたい衝動に駆られてきた。昨日、オージー達がハイキングの後プールに行った気持ちがわかるような気がする。
「よーし、帰ったらユースのプールに入ろう。」そう決心した。
そうこうしてるうちに、17:30になり、ボートがやってきた。ボートに乗ろうとすると、帰りのチケットを落としてしまったことことに気づく。ポケットを全て探してもどこにもない。仕方がないから、スタッフに
「すいません。帰りのチケットをなくしてしまったんですが。」
というと、そのスタッフは、
「あー、ちょっと待って。キャプテンに聞いてくるわ。」
というと、後ろから、
「彼は行きも、ボートに乗ってたぞ。俺は彼がボートに乗ってたのを覚えてる。」
といってくれる人がいるではないか。中学生の子供の父親であった。思い出してみると、この父親は朝、ハイキングコースの所で写真をお願いしてた人であった。
「あらそう。じゃあ、いいわ。乗って。」
とスタッフに言われ、無事ボートに乗ることができた。その父親にも助けれくれたお礼を言っておいた。
ボートにのると、スタッフが、
「クーラーボックスにジュースを一本1ドルで販売しています。ご希望の方はどうぞ。」というので、迷わずに買うことにした。水ばかりのんでいたから、味のついた特に甘い系のものが飲みたくてしょうがなかった。買ったその場でダイエットコークを一気のみしてしまった。
「ああ、うんめー。」
声を大にして叫びたい味であった。こんなうまいコーラははじめてである。ハイキングでの疲労と暑さ、のどの渇きが交じり合ってしか味わえない味覚であった。帰りもボートは10分たらずでタウンサイトに到着。
「やっと、着いたー。」
と思いながらふらふらになってボートを降りると、例の小学生の家族連れの一行が俺の事を待ってていて、握手を求めてきた。俺も一人一人に、
「ありがとう。とても楽しいハイキングでした。」
といいながら固い握手を交わした。向こうも、
「カナダを存分に楽しんでな。」「気をつけて旅をしてね。」
といってくる。今日はじめてあった仲ではあるが、ハイキング中はカタコトの英語でお互いに励ましあいながら、共に苦労を分かち合ったものでしか生まれない連帯感があったのだと思う。旅の醍醐味である「一期一会」を実感したしだいであった。その後彼らは車にのり、ウォータートンを去っていった。俺はその後、真っ先にアイスクリーム屋へ直行しに行った。
アイスクリーム屋は相変わらず混んでいる。一応オーダーのシステムは昨日の段階で理解したので、自分の番が来た時には、指で「これ、これ、これ。」とテンポよく注文をすることができた。しかし店員は相変わらず愛想が悪い。今日のアイスはレインボーシャーベットとブーブーバブルの組み合わせ。見た目はとてもカラフルだが、いかにも合成着色料をふんだんに使ったような感じである。ブーブーバブルはアイスの中に風船ガムが入ってるみたいなのだが、凍ってしまってるのでガムの昨日はなくなっているからそのまま全部食ってしまった。でも味は最高である。やっぱ疲れたときの甘いものはとても美味く感じてしまうのである。
ユースに戻ると、ニュージャージーが来てるおばちゃんがラウンジにいた。俺の姿を確認すると、
「どうだった。クリプトレイクは?」
と聞いてきた。
「いやー、よかったですよ。すばらしかった。でも、すっげー疲れた。」
とちょっと大げさに死にそうな顔をしたら、ゲラゲラと笑われてしまった。その娘さんも俺のしぐさをみてクスクス笑ってる。「(いや、冗談抜きで本当にしんどいんだよ)」と言おうと思ったけど、どう英語で表現したらいいか思いつかなかったので、止めてしまった。のどの渇きが収まらないので、冷蔵庫から昨日買った「GREEN TEA」を取り出した。キャップをあけ飲んでみると。むちゃくちゃ不味い。
「おぇ、なんじゃ、この味は。」
てっきり「生茶」と同じかなと想像をしていたのだが、全然違っていた味であった。緑茶に砂糖が入って甘いのである。我々日本人は、緑茶に砂糖をいれて飲むという習慣はほとんどない。ストレートで飲むのが主流である。こっちの人は紅茶と同じ考えで緑茶にも砂糖を入れるのが主流なのだろうか?しかし、なんだかんだぶつくさいいながら全部飲み干してしまった。部屋に戻り、荷物を置いて、速攻でプールに出かけた。受付は名前を書くだけ。バスタオルを借りて更衣室で着替える。着替えといっても、水着をもってないので、ハイキングで行った格好のままである。Tシャツを脱いで、トランクスも脱いで、ハイキング用のズボンをはいてるだけ。周りをみても、デザイン的に水着と同じである。その後、軽くシャワーをあび、室内プールへ入った。プールの大きさはよく学校にある中は結構子供連れで混みまくってる。25mサイズの大きさ。そもそも泳ぐつもりなまるっきりない。ハイキングで火照った体を冷やしたいのだ。プールサイドを適当に歩いていくと、端の方に、白い大きな丸い浴槽みたいなものがあった。泡がブクブクとでているジャグジーだ。ここはあまり人がいないので、
「よし、ここでしばらくくつろぐか。」
と思って入ると、なんとお湯であった。まさにジャグジー風呂だ。シャワーばかり浴びてたので、浴槽につかれるなんて思いもしなかった。
「冷たいのを期待してたけど。やっぱ熱いのもいいな。」
と思い、且つなんでもっと早くジャグジーがあるのを気づかなかったんだろうと悔やんでしまった。やっぱなんといっても風呂につかるのはいいものだ、ここのジャグジーは露天ではないが、大きなガラス窓がそばにあるので、山の景色も堪能ができる。しばらく入っていたら段々のぼせてきたので、プールの方に移動することにした。プールの水はとても生暖かく何だか入ってて気持ちが悪い。適当に平泳ぎなどをしながら泳いではみたが、10年以上も泳いでないので、なれない筋肉を使ったためかときどき足がつりそうになるので泳ぐのは辞めることにした。適当にぷかぷかと浮いててもプール内は混んでいるので、水しぶきが顔にかかりまくっておちおち浮かぶこともできない。そんな訳で、プールはあきらめる事にして、隣にあるデッキみたいな所にいって、トレッキング用のズボンを乾かすことにした。プラスチックで出来たベッドに横になり、心地よい風を浴びながら寝転んでると段々眠くなってくるのがわかる。30分も横になってると、大方乾いてきたのでプールを出ることにした。
部屋に戻って着替えをして、キッチンに行ってビールを飲んだ。酒を飲むとタバコが吸いたくなってくるので、ビールを飲み干した後、キッチンの裏から外にでて一服することにした。裏には灰皿があるので、時々スモーカーが集まってくる。一人の男性が火を貸してくれと言ってきたので、ジッポでタバコに火をつけてあげた。彼は俺に礼をいいながら、
「ここはいい所だな。君はボートに乗ったかい?」
と話し掛けてきた。
「昨日乗りましたよ。素晴らしい景色ですよね。今日はクリプトレイクまでハイキンをしてきました。」というと、
「俺は今日、ベアーズハンプに行ってきたんだが、グリズリーを見たよ。」
というので、
「まじっすか?俺も昨日そこ行きましたよ。クマはいませんでしたけど。」
「まあ、グリズリーといっても子供のグリズリーね。でもすぐどこかにいってしまった。」
それを聞いて、「(やっぱクマはいるんだな)」と思った。今まで野生のクマは見たことがないので、このカナダに来た以上一度はみてみたいと思ってはいるが。しかし、もし遭遇してしまったら、それもまた恐ろしいと考えてしまった。この男性はアメリカのペンシルベニアから家族で来てるそうだ。2週間は滞在すると聞いてうらやましくなってしまった。彼のいとこの奥さんが日本人でその話でタバコを吸ってる間、盛り上がってしまった。タバコを吸い終わると、腹が減ってきたので晩飯の準備に取り掛かるため、再びキッチンに戻ることにした。
今日の晩飯も即席ラーメン。いい加減飽きてきたが、食料を減らさないと荷物が増えるのでいたしかたない。食後は、まだまだ日が長いので外にでて、旅の日記を書くことにした。例のテーブルチェアが場所を変えて、となりの空き地のところにおいてあったのを見つけたので、そこに座ってビールを飲みながら日記を書くことにした。20:00を過ぎても空はまだまだ明るい。しばらく日記を書くのに没頭していると、背後から「トッ、トッ、トッ。」と足音がしたので、振り返ってみるといきなりシカがいるではないか。あまりにも突然だったので
「おぉ〜。」
と声をあげて驚いてしまった。そのシカは驚いてる俺に見向きもせず、そのまま俺の横を通り過ぎ、空き地にある草を食べ始めた。シカは散々見てきたので見飽きた部分がかなりあったが、しかしいざ、間近で遭遇すると、とてもびっくりしてしまった。ようやく日記も書き終わり今度は友人に出す絵ハガキを書いてると、日もとっぷりくれてきたので、だんだん書く字も見えなくなってきたから、いったんキッチンに戻ることにした。キッチンに戻ると、ニュージャージーからきた、おばちゃんが晩飯の後片付けをしてた。軽く挨拶を交わし、今日の出来事をお互い報告しあった。彼女は明日、子供達と一緒にここを経ち、ウエストグレイシャーまで行くとの事であった。イエローストーンには行くのかと尋ねたら、そこまでは行かないと言われてしまった。しかしこのおばちゃんは以前イエローストーンで働いたことがあるらしく、景色の素晴らしさを一生懸命説明してくれた。俺がいろいろとハイキングや国立公園に関する質問や話をしたら、
「日本にはハイキングをする山とかないの?」
と聞いてきたので、
「ありますよ。沢山。日本の国土の70%は山岳地帯ですから。」と答えると、
「あらー、いいわね。ニュージャージーなんか全然山がないわよ。あっても、ぽこっぽこっとした小さな丘だけ。」
と残念そうに教えてくれた。いろいろと話し込んでたら、あっというまに時間が過ぎ、段々眠くなってきたので、お互いそれぞれの部屋に戻ることにした。
今夜は誰もいないので、部屋はプライベートルームみたいな感じで快適であった。いびきをかいても迷惑がられることもない。今日はハイキングで疲れ果てたので、速攻に爆睡体制に入っていった。明日はいよいよ、ここを出発だ。
(つづく…) |