7/10ウォータートンレイクス国立公園2
*7/10ウォータートンレイク国立公園2日目(快晴)*
  夕べは咳がひどかったため、結局爆睡体制に入ったのが4:00頃であった。起きたのが朝の8:00。同部屋のオージーグループはもう既にいなくなってる。眠い目をこすりながら、俺も部屋を出て朝飯を食おうとキッチンに行くが、これまた通勤ラッシュのようにユース宿泊者で混みまくり状態であった。オージーグループ達も急ぐように、朝食を食べているのがわかる。デイパックを抱えているからどこかのハイキングに行くのが予想できる。しかたなく隣のラウンジでキッチンが空くのを待つしかない。例のガタイのしっかりしたオージー青年が俺の方をみて、笑いながら
「おはよう」
と挨拶をしてくる。
「おはよう」
と俺も返答した。「今日はどこにいくんだ?」と尋ねようとしたけど、なんだか忙しうなので話し掛けるのをやめた。

 ユースに宿泊して今日で2日目。よくみると日本人は俺しかいないようだ。そういえば昨日街中をいろいろと散策をしたが、日本人らしい観光客は全く見かけることが出来なかったことを思い出した。ここウォータートンは世界遺産に登録をされているが、日本の旅行パンフレットをみてもこの「ウォータートンレイクス国立公園」のツアーの企画はほとんど見かけたことはない。パンフレットにはロッキーのイメージとして小高い山の上にあるプリンス・オブ・ウェールズ・ホテルが掲載された写真は結構あるのだが。アクセスもカナディアンロッキーの玄関口とされるカルガリーから車で約3時間の距離である。バンフよりも近いのであるが。でもまあ、知名度でいったら確実にバンフやジャスパーに軍配が上がる訳であるから、仕方の無いことではあるが。ただ、カルガリーから一日しかない時間の中でロッキーの景色を味わいたいなら、ここウォータートンはなかなかのお奨めな場所だと思う。

 と、そんなことをキッチンの様子を見ながらふと考えていたのであるが、相変わらずキッチンは混んでいる。しかもみんな楽しそうだ。ユースはホテルとか違って、いろんな人と知り合える場所でもある。一人で旅をしても、ユースに泊まればあまり淋しくなることはない。しかし、一人ラウンジに座ってる俺は何故か蚊帳の外にいるような感じがしてならない…。一人で旅をしてると、周りで楽しそうな集団とかみてるととてもうらやましくなってしまうのだ。(いちゃついてるカップルをみると蹴飛ばしたくなるが…)当然、解決策はわかってる、要は気軽に話し掛ければいいのである。しかし、その話し掛ける勇気でいつも躊躇してしまう傾向があるのだ。
「俺のインチキ英語で相手をしてくれるだろうか?」
この気持ちが腰を重くしてる原因であった。なんか、このままでは旅の楽しみが半減してしまうような気がしてきたので、
「よし!旅の恥はかき捨て!積極的に話し掛けてみるか。」
と決意し立ち上がって、キッチンの方に向かおうとしたら、キッチンにいた大半の人達が蜘蛛の子を散らしたように、去っていくではないか、
「あらら…」
なんだか出鼻を挫かれたような感じであった。昨日の黒人と白人のカップルがいたので、とりあえず「おはよう」と挨拶だけしておいた。向こうも挨拶を交わして来る、冷蔵庫をあけて、昨日買った食材を探してるといつのまにかそのカップルも出かけてしまった。一人ポツンと残された俺は朝食として、ヨーグルト、食パンにピザトーストをぬってスライスチーズをはさんだ物と野菜ジュースを食べることにした。一人でモクモクと食べてると、昨日ラウンジで挨拶をした無精ひげの青年がキッチンにやってきた。彼も一人で淋しそうに食べてるから、ここぞとばかりに思い切って話し掛けてみた。
「今日はどちらに行くんですか?」
と尋ねると、その無精ひげ青年は
「ん?今日はこれからここを発つんだ。バッファローパドックに行って、その後カルガリーに行くつもりだ。スタンピートフェスティバルを観にいきたいんで。」
「もうどの位旅してるんですか?」というと
「もう何ヶ月も旅してる。とりあえず、この後もずっと旅をしていくつもりだ。」と返ってきた。この青年、車で旅をしてるらしく、車はかなり年代の古いぼろいカローラに乗っていた。
「そうですか。気をつけて旅して下さい。」と言ってあげた。何故か会話はここで終わってしまい、後は重苦しい雰囲気が漂うだけであった。

 今日の予定は、まず湖のボートクルーズと昨日カールさんに教えてもらったベアーズハンプのハイキングにいくことにした。ボートの時間が10:00なので、9:00過ぎにな出ないとならない。朝食を済ませると、さっさと歯を磨いて出発の準備に取り掛かった。9:15頃ユースをでる。天気は快晴でとてもすがすがしい、といいたいところであったが、日差しが強すぎてなんだかとても熱くかんじてしまうのだ。ボート乗り場に行く前に、コンビニに寄って昼食用のサンドイッチとミネラルウォーター、スポーツドリンク、m&mチョコを購入していく、ついでに絵葉書も何枚か購入した。ボート乗り場はそこから歩いてすぐなのでチケット売り場で搭乗券を買う。10:00出発のボートに乗ることが出来一安心。ボート乗り場は既に人でごったがえしている。待ってる間も、日差しがジリジリと肌を焼き付けてくるので、日陰のところで一服することにした。やがて混雑していた人たちが自然と並びはじめてきたので、俺もあわてて列に加わることにした。列は思いっきり、日差しを浴びるのでとても暑い。すかさず帽子とサングラスをかけることにした。しかし帽子の色が黒なので余計に熱を吸収して頭が暑くなってくるので、帽子をかぶるのは辞めてしまった。


(このボートで湖にでます)

ボートは1階と二階に別れている。できれば、見晴らしのいい2階席に座りたいと考えていた。列は結構後ろの方だったので、果たして座れるかどうか心配であったが、めでたく何とか2階の席に座ることができた。10:00になりボートは定刻どおり出発。乗客は満員である。乗客の客層はお年寄りが多く、その次に家族連れの人達がおおい。動き出すと同時に風がくるのでとても涼しい。このボートクルーズ、行き先は、「ゴートハウント」という所である。ウォータートンレイクス国立公園はアメリカのモンタナ州にある「グレイシャー国立公園」と隣接している公園である。国境を境にカナダ側がウォータートン、アメリカ側がグレイシャー国立公園となっているのだ。ゴートハウントは湖の一番南端の場所に位置しそこはもうアメリカ国内の領土となっているのである。そんな訳だから、俺はボートから降りる際、入国審査でも行うのかなと思いパスポートをすぐに出せるように、デイパックの中から取り出しポケットの中に移し変える事にした(そんな行動は杞憂に終わったが)


(さあ出発だ。雲一つ無い快晴で絶好のクルーズ日和。でも風が吹くと結構寒いかも...)

ボートクルーズの内容はガイドブックでみると、ゴートハウントにいってそこで30分休憩し、単純に戻ってくるという内容。所要時間は2時間の内容だ。もちろん、ウォータートンからボートに乗ってゴートハウントからグレイシャー国立公園内のトレイルを歩いく片道での利用もできる。湖の形状は南北に細長い縦上の形をしている。なんとなく福島県裏磐梯にある桧原湖の形状に似ている感じがする。


(上下に対象に写ってる景色が素晴らしい。ちょっと湖面に波があるけど...)

 出発すると、ガイドがマイクを使っていろいろと湖に関する説明を始めた。「ここウォータートンは…。岩の山が…。岩質は…。はるか昔の地殻変動…。この辺の動物は…。植物は…」
といってるみたいだが当然の如く英語だから、なんだかよくわからん。説明の後に「何か質問は?」と言う部分だけしっかりとわかるが、誰も質問する人はいなかった。そんなわけで俺は説明など無視して、ボートから見える湖上の景色を思いっきり楽しむことにした。雲がほとんどなく無風に近いので、周辺の山が鏡の様に湖面に映し出される光景がとても綺麗である。
「う〜ん、いいねー。この景色。」
何度も唸ってしまうような光景だ。俺は、肘をボートの柵みたいなところにかけ、ぼーっとたそがれていた。なんだか心が洗われるような感じがしてならない。湖上では時々、カヤックや、カヌー、釣り用のプレジャーボートなどが浮かんでるのがわかる。しばらくぼーっとしていると、乗客が一斉に同じ方向を向き始めた。カメラを構えてる人もいるが、その方向を見ても何もない。ガイドの話を注意深く聞いてみると、そこのポイントでよく野生の動物が出て来るそうだ。しかし今回は残念ながら、動物は現れることはなかった。乗客一同がっかりした感じで、再び前方を向くようになった。やがてしばらくすると、また同じように乗客が同じ方向を振り返る行動がでてきた。


(ここが、カナダ&USAの国境。近くにキャンプ場もある。ボートはいよいよUSA領内へ)


(山に一本の筋が左がカナダ側、右がUSA側。木を伐採して国境を表している)

今度は国境だ。右側の岸に白い2本の柱が立っている。ちょっとガイドの話を聞こう神経を集中させてみると、両岸は山に囲まれているのだが、その山をみると、一本の筋が一直線に通ってるのがみえた。ちょうど国境上の木を伐採して、わかるようにしてあるという。思わずその光景をみて
「おお!すげー、でも木を切るのは大変だったろうな」とつまらないことも考えてしまったのであった。いよいよ湖上からアメリカ国内に入ることとなった。しばらくすると、船をとめる桟橋がみえてきた。いよいよ湖からアメリカ本土への上陸だ。


(左が桟橋、星条旗が見えてきた。いよいよアメリカ本土へ上陸)

 ボートが桟橋に到着すると、ガイドから30分の停船するとのアナウンスが流れる。すると小さな星条旗を持った初老のパークレンジャーが乗船してきて、なにやら挨拶をしてくるではないか。



(上の写真のところかと思ったら、こっちの方に寄港でした...)


「ようこそアメリカへ。向こうの小屋で簡単なレクチャーをやってますので、皆さん是非来てください」と宣伝をしてきた。


(真ん中で黄色っぽい帽子をかぶってるのが、レンジャーのおじいさん)


俺は、「そんなレクチャーを聞いてもどうせ英語で理解できないから。貴重な時間がもったいない」と思いパスすることにした。

(貴重な10分なので、今回はパスすることにした)
ボートから降りると、とりあえず、皆が岸側にあるトレイルを歩いていく方向についていくことにした。トレイルをのすぐ隣は深い森となっている。5分位あるくと小さな「レンジャーステーション」が立っている。要はここからトレイルを歩いてア



(ここがレンジャーステーション。アメリカ側に入る際は、ここで手続きが必要)


アメリカ国内に入るにはここで手続きを踏まなければならない。トレイル上にもロープが張られて、「これから先進むには入国手続きが必要」といった趣旨の書かれた札がぶら下がっている。ここでちょっとした悪知恵が働き、写真を撮ってもらおうと近くにいる人にシャッターを押すのをお願いした。写真を撮る時は、レンジャーが近くにいないのを見計らって片足を半分ロープでまたいで撮って貰うといったポーズである。あるいみ不法侵入となるかもしれない。そんな格好を見て写真をとってくれた人はくすくすと笑いながらシャッターを押してくれた。


(トレイルにしっかりとロープが張られ、注意書きがされていました)

 レンジャーステーションの中を覗こうとすると、急に外にいたレンジャーが「入国手続きをするの?」と話しかけてきたので、一瞬「びくっ」っとして、「いえいえ、しません…」といって、その場を退散することにした。そうこうしている打ちにボートが出発する時間まで、残り10分しかなくなってきたので、適当に写真をとりながらボートの所まで戻ることとした。その前にトイレによると、先ほどの初老のレンジャーが見えた。大きなムースの角を持っていろいろと説明をしている。観客もそこそこ入ってるようだ。ちょっと聞いてみたが、やっぱり何をいってるのかよくわからないのでボートに戻ることにした。結局、アメリカの領土に居ながら、パスポートの提示とかもなく、当初の考えては杞憂に終わってしまった。


(ゴートハウント側から撮った、ウォータートンレイク)

 再びボートは桟橋から出発し、ウォータートンレイク国立公園に向かい始めた。帰りは単純に往復なので、もと来た航路を往復するだけ。でも景色が素晴らしいので、一生懸命脳裏に焼き付けようと、その光景を眺めることにした。ガイドは相変わらず一生懸命説明を行ってるようだ。ちなみに、ボートに乗ると結構風を浴びるので、寒く感じるから、もしこれからいかれる方は、たとえ暑くてもウインドブレーカーは持っていった方がいいと思います。

 再び公園に到着した時はちょうど、お昼の時間帯であった。朝買っておいたサンドイッチがあるのでそれを食べようと、湖のほとりにあるベンチに座ることにした。何故かすぐ近くでテレビか映画かどちらかわからないがロケを行っていた。有名な俳優でもいるのかなと思って、しばらく見ていたが、俺が知ってる限りでの有名な俳優や女優はいなかった。ベンチに座って、デイパックから、サンドイッチを取り出す。


(こんな所に日本語が...)

サンドイッチといっても、日本のコンビニで売ってるようなサンドイッチではない。ホットドッグのパンを30cm位長くしたような、でかいパンでハムやポテト、などがぎっしり詰っていて、見ただけでもおなか一杯になりそうなボリュームだ。のんびりと湖を見ながらのランチはとても美味しい。ふと、横をみると、すぐそばでシカが一匹草を食べてるではないか。しかし、昨日は散々シカを見てきたので、すぐ近くに来ても、写真を撮ろうとかする意欲はなかった。あんまりしょっちゅう見かけると、その辺にいる野良犬や野良猫のような感じがして興味が薄れてくるのである。なんとかサンドイッチも食い終わり、腹もたらふくになったので、ミネラルウォーターを飲みながら、のんびりすることにした。ベンチは木陰の所にあるので、強い日差しを遮ることが出来て、意外と涼しい。時々吹くそよ風が、ますます心地よさを演出してくれる。が、そうでもないことがある。ここに来てずっと疑問に思ってたことがあったのだが、何故かウォータートンには、綿みたいなものが沢山舞っているのである。最初は、鳥の羽か何かと思ったが、それにしてはものすごい量である。どう見ても鳥の羽とは思えない。ずーっと不思議に思ってたので、地面に落ちているのを拾い上げてみると、タンポポの種に似ているのがわかった。「植物の種か〜」と思って、木の上を見ていると、葡萄の房のように、その種がぶら下がっているではないか。
「はは〜ん、この羽みたいな種は、この木の種だったんだ」
なんだか、ちょっとした疑問がとけると何故か嬉しくなってしまう。しかし、風が吹く度にその種は「ぶわぁ」と舞い上がり、それが洋服や髪毛につくので、いちいちとるのがめんどくさくなってくる。しかも俺が居るところはその原因となっている木下にいるので余計に量が多い。すれちがう外人さんも、風で舞がッた、そのタンポポみたいな種が舞い降りてくるのを見て、俺の方に
「見ろよ、雪だぜ。夏なのに…。ハハハッ」といいながら去っていった。でも、その表現は正直あたっている、本当に雪のようにフワフワと舞い降りてくるのであった。更に風が強いと吹雪みたいな現象になるのであった。


(いよいよベアーズハンプに挑戦。ハイキングコースには大体こういう標識が発っている。自転車と乗馬は禁止区域のようだ)

 さて、午後の行動はカールさんご推薦の「ベアーズハンプトレイル」である。ここから見える景色が素晴らしいと聞いていたので、行ってみることにした。トレイルの入り口である昨日行った観光案内所までトボトボと歩いていくことにした。観光案内所は丘の上にあるので、登りきった時はちょっと疲れてしまった。一旦観光案内所に入り、トレイルの状況を見てみることにした。特に主だった記載はされてなかったが、レベルはミディアム・ハード。距離1.4km。所要時間は約40分。登っていく高さは200mと書かれていた。距離と所要時間をみて、
「これなら、楽勝だな」と甘い考えを抱いて、早速登っていくことにした。

 トレイルの始めから登りになっていく。俺のすぐ前に、小学校低学年か幼稚園位の子供連れのファミリーが何組か集まっていて、ゆっくりと歩いていた。ハイキングをするのは5年振り位なので、俺も無理せず、周りの景色を楽しみながらゆっくりと登ろうと考えていたので、そのファミリー達のベースに合わせて、後ろからついて行くことにした。しかし、その中の父親風の方が、俺の方をみて「おう、先に行っていいぞ。うちらは小さな子供がいるから、ペースが遅いんで」と言われ、皆が一斉に道を譲ってスペースを空けてくれたが、俺としてもこの人たちのペースに付いていこうと考えてたので、

「いや、結構です。俺も遅いんで」と言って断ることにした。
やがて、その何組かのファミリーグループも、それぞれのペースで歩き始めたので、適当に自分のペースに近い人を選んでついていくことにした。小さな子供達はとても元気があり、まるで鬼ごっこをするかのようにはしゃいで登っていった。段々と登り始めていくと、岩が目立つようになり、傾斜もきつくなってくるのがわかった。俺の息もぜいぜいいって、かなりしんどくなってくるのがわかる。
「あ〜、きつい。暑い。」
といいながら、5分おきに休憩するようになってしまった。休憩する度に朝かっておいたスポーツドリンクを飲む。飲み口が、自分で吸うか、容器を押しつぶさないと出てこない作りになっているので、軽く容器を押して、一口分だけ、飲むことにした。その一口分がとても美味しく感じ、元気が出てくるようになった。今の疲労状態と喉の渇きでは一気に飲んでしまいかねないからだ。時々すれ違う人がいると、
「ハイ!」と挨拶を交わす。日本でも山に登ると「こんにちは」と挨拶を交わすが、ここカナダでも同じことをするのがわかった。

 ようやく山の中腹あたりにくると、木がなくなり一気に視界が開けてきた。なんだかんだ言ってきつかったが30分程で登れてしまった。ベアーズハンプに到着だ。白い岩の上の高台から、みるウォータートンの眺めはとても素晴らしい。汗だく常態になって登ってきたかいがあった。


(ベアーズハンプからの眺め。湖と街を見下ろす事ができる。苦労して登った人にしか与えられない景色である)

「おお〜、やっと着いた〜。すっげー綺麗な景色だ。」
そう思わず声に出してしまうほどの眺めだ。
「はあ。」
と何度もため息を付いた。すぐ下には、公園内の街も見下ろせる。しばらく景色を見とれながら、休憩をすることにした。このまま、すぐに戻ってはもったいない感じがしたからである。休みながら携行食のチョコを食べながら疲れを取ることも忘れなかった。


(街も一望できる。真ん中に移ってるテニスコートの下が、俺の泊まったユース)


(この辺の山は大体海抜2500Mクラスがそびえたっている)

「ウォータートンに来てよかった。」
と思える景色といっても過言ではない。周りは岩の隙間からリスが出たり入ったりしている。写真を撮ろうとしても警戒心が強いのでなかなか撮るれないのが悔しい。しばらくマネキン人形の様に、じっとして撮るしかない。ふと一匹のリスが、誰かが食べ残したリンゴの芯を手に持ちかじってる姿があったので、運良く写真に収めることに成功した。つい、リスの写真にムキになっていると、周りに誰も居なくなっていることがわかった。自分の写真をとってもらおうとしてもそれが出来ないのである。人が来るまで景色を堪能してたが30分まっても来ないので、あきらめる事にした。


(逆側を見渡すと、平原となっている)

 帰りは坂道を下るだけだから楽だろうと思ったけど、降りる時の衝撃が膝にくるので意外と疲れてしまう。(それでも登る時より楽であるが…)すれ違う人たちに挨拶を交わしながらさっさと下ってしまった。これから登っていく人達の表情は皆辛そうな顔をしている、しかも降りてくる俺の姿が汗だく状態なのをみて、このトレイルはとてもきついのかと思ってるようで、何人かの人にどの位で登れるのかと質問にあった。「30分位で登れますよ」というと、「30分でそんなに汗をかくのか?」と言われてしまった。


(ようやく写真を撮ることが出来たリス。観光客が捨ててったリンゴをかじっている所)

 再び、観光案内所の中に入ることにした。何故ならば、明日は1日かけてどこかハイキングに行こうと考えていたからである。日本から持ってきたガイドブックにも、幾つかのハイキングコースが紹介されていたが、その中で「クリプトレイク・ハイク」というコースがちょっと気になっていた。なにやら、自然に出来た洞窟をくぐっていくコースらしい。現地のハイキングガイドにも「カナダで最もユニークなハイキングコース」と謳われている。ただ距離が往復で約16kmもあり、所要時間が6時間(食事タイム抜き)と書かれているので、正直そこまで歩けるか自信がなかった。ましてやこのハイキングコースを歩くには、今日乗ったボートで湖の対岸まで行かなければならず。ボートの始発は9:00で帰りは16:00のボートに乗らなければならないからだ。果たしてこの7時間の間に帰ってくることが出来るだろうかと脳裏に不安がよぎってしまうのである。案内所の情報を見てみると、レベルはミディアムと書かれている。そしてカッコ書きで所々ハードとまで記載されている。よく読んでみると、注意点として、「所々にWild Fallと雪でトレイルがわからなくなっているから注意するように」と書かれているではないか。なんだかこの注意点を読んでますます躊躇する感じになってしまった。他のハイキングルートもみても結構レベルはミディアムクラスが多い。トレイル情報をいろいろと見てみたが、結局どれにするかはその場では決められなかった。
「とりあえず、第一候補はクリプトレイクにして、第二候補をバーサレイクにしよう」
と思い、案内所を出ることにした。

 ベアーズハンプトレイルから戻ってきたばかりなので、汗ダク状態であった。日差しは相変わらず強いから案内所近辺で日陰の場所を探し、そこでしばらく休むことにした。案内所の隣は駐車場になっているので、これから公園内に入る人や、ベアーズハンプトレイルに向かう人たちの車がひっきりなしに出たり入ったりしているのがわかる。めずらしくチャリダー(自転車で旅行する人)も来ていた。

 汗もだいぶ引いてきたので、再びタウンサイトに戻ることにした。

 タウンサイトに着くと、アイスクリーム屋があったので、そこに思わず入ってしまった。ハイキング後の疲れとあまりの暑さに、冷たくて甘いものが欲しくなってきたからだ。店の中は繁盛してて結構混んでる。一列に並んで、自分の番がやってきた。10種類以上あるアイスでどれにするか迷ったが、適当に指を刺して注文しようとすると、無愛想な店員が、まずどのコーンにするか聞いてくる。どのコーンといってもよくわからないので、何度も聞き返すが、そんなやりとりで無愛想な店員はますます無愛想になり、コーンのサンプルがあるところを指差してきた。俺が
「じゃあ、ワッフルコーンで」
「アイスは?どれにするの?」
「オレンジシャーベットとチョコチップ」と指を刺しながらいったのだが、通じず。チョコチップの代わりにキャラメルバニラを盛られてしまった。この無愛想な店員は会計まで終始ニコリともせず、無愛想な対応で終わってしまった。店の外にでて、馬鹿でかく盛られたアイスを食べることにしたが、これがなかなか美しい。ハイキング後の疲れで、キャラメルバニラの甘さが、疲れを癒してくれる感じがして、それが食べ終わると、今度はサッパリしたオレンジシャーベットの味がよく合うのである。しかし、時折吹く風で、例のタンポポみたいな種が一気に宙をまい、アイスにへばりついてくるのが大変ではあったが…。

 ユースに戻る途中、スーパーに寄ってジュースを買うことにした。ジュースの棚をみると、「GREEN TEA」と書かれたボトルがあったので、思わず、
「おお、こんなところに緑茶が。カナダでも売ってるんだ。よし買おう」と思い、アイスティーと一緒に買うことにした。その後、近くの酒屋でビールを4本程購入してユースに帰っていった。

 ユースに着いて即行でビールを飲むことにした。キッチンで栓抜きを探していたがなかなか見当たらないので、あちこち探していると、例のガタイのしっかりした、オージーの青年が、
「俺が開けてやるよ、貸してごらん」
というのでビール瓶を渡すと、手であけようとするではないか、
「おいおい、大丈夫か?」
と俺が言うと、いとも簡単にビールの栓を開けてしまった。
「すげーな!」というと、
「よく見てみてみろよ、このビールの栓はこうなってるんだよ」
とビールの飲み口を俺の方に近づけてくる、よくみると螺旋状になっていた。栓抜き不要のネジ式のキャップになっているのである。二人してゲラゲラ笑って、とりあえず開けてくれたお礼を彼にいった。一気に半分くらいビンのままビールを飲み干す。
「ぷはー、うめえー」
ハイキングで汗を思いっきりかいた後だから、余計に美味く感じてしまう。結局3〜4口程で一気に飲み干し、シャワーを浴びることにした。シャワーを浴びるとなんだか顔と腕がヒリヒリしてくる、どうやら日焼けをしたみたいだ。

 シャワーを浴びた後、またビールを飲んでしまったが、さっき一本飲んだばかりなので、今度はあまり美味くない。捨てるのももったいないので我慢して今度はゆっくりと飲み干すこととした。ビールを飲んだ後、やることがないので、昨日と同じように、外でタバコでも吸いながら、日記を書くことにした。しかし、外に出ると、昨日あった、例のテーブルチェアの姿がないではないか。近くにいた、女性に「すいません、あそこにあった、テーブルどこに行ったか知りませんか?」と尋ねると、
「う〜ん、ちょっとわからないわ。そんな事より、この椅子にすわってみない」
といわれたので、その椅子をみると何だか奇妙な形をしている。体に負担をかけないように作られた人間工学に基づく設計のようである。俺はいわれるがままにすわってしまうと、その女性はマッサージを始めてくるではないか。女性が立っている場所はマッサージルームの前であった。
「あちゃー、やべー。ひょっとしてマッサージ料取られるのかな?」と急に心配になってきた。そういえばシアトルの空港でも似たような椅子に座ってマッサージをするのを見たことがあるのを思い出してしまった。
「オイルも使ってみる?」
というので、後で更に追加料金が発生するのではと思い俺は遠慮することにした。その女性は肩や背骨の近辺を満遍なく指圧をしてくる。ハイキングをした後の疲れた体には結構気持ちよくなってくるのがわかる。その女性はマッサージをしてる間、その辺を通りかかる人たちに
「マッサージどう?」と一生懸命宣伝を行っていたが、だれもする人はいなかった。疲れた体にマッサージはとても心地よくだんだん眠くなってきてしまった。10分位してマッサージが終了。
「はい、XXドルになります」といわれるかと思ったが、一言もそんな言葉がでてこないのでまずは一安心。その女性が
「ユースに泊まってるの?」と聞いてくるので、
「そうです。3泊する予定です。これからカナダを1ヶ月かけて旅行をするので。」
「あらいいわね。次はどこに行くの?」
「サスカトゥーンです。」
「サスカトゥーンに友達か誰かいるの?」
「いえ、いません。大平原をみてみたいんです。日本ではそんな光景はみれないので。」
「気をつけて旅してね。」
「ありがとうございます。」
とまあ、適当に世間話を続けることとなった。日本にも「指圧」というマッサージがありますというと、その女性は「指圧」という言葉をしってたので、「針、灸」についても尋ねてみたが、それについてはしらなかったようだ。人体に針を指すやり方を聞いてえらく驚いたかんじで「痛くないの?」と聞いてきたけど、俺も針&灸はやったことがないので、答えることが出来なかった。とりえずマッサージのお礼を言って、部屋に戻ることにした。テーブルがないので、日記を書くことができない。

 ユースのキッチンに行くと、結構人が沢山いる。時計をみると18:00を過ぎている。もう夕食の時間なのだ。カナダの日没は遅いので、18:00を過ぎてもとても明るく、夕方という感じがしない。昨日少しだけ話をしたカップルの男性の方が、
「おい知ってるか?オージーの連中、今日ハイキングにいって、その後プールにいってるぞ。全くタフな連中だぜ。足の筋肉がガクガクになってしまうよ」と話し掛けてきた。
「まじですか?俺も今日ハイキングに行ってきたけど、疲れ果てて、ブールなんかにいく気力なんかないよ。」と答えた。しかしその話を聞いて彼らの行動にはつくづく感心するばかりであった。

 カップルの人達は、ステーキを作っていてとてもうらやましく思った。肉だけではなくその周りに添えるような、ブロッコリーや人参、ポテト、パスタまで準備している。キッチンの下には彼がもってきた様々な調味料が入ってるクーラーボックスが置いてあった。そんな美味そうな料理を尻目に俺も夕食の準備に取り掛かることとした。今日の晩飯はスーパーで買ってきた、マカロニのグラムチャウダーみたいな奴である。インスタントなので、そんなに手間がかからないかと思ったが、作り方をよく見てみると、バターやミルクが必要と書いてある。そんなものは持ってないので、無視して作ったが、出来上がって食べると。これがえらく不味い。でも我慢して食べることにした。隣でステーキを食べてるカップル達がますますうらやましくなってしまった。今度、インスタントを買うときは、作り方の欄をよく見てから買おうと思った。口直しにピザソースを塗ったパンも食べることにした。そうでもしないと、口の中が気持ち悪くて仕方ないのである。

 食後、キッチンはちょっとした談話室のようになった。最初、カップルの女性の方が俺に、
「今日はどこに行ってきたの?」と尋ねてきたので、
「今日はボートクルーズとベアーズハンプトレイルに行ってきたよ。ベアーズハンプからの景色は素晴らしいからお奨めです。30分くらいで登れますから」というと、
「あ〜、行ってみたいけど。私達明日ここを出るのよ。」
というから、
「えッ?明日はどこに行くんですか?」
と尋ねると、今度は男性の方が、
「バンフだよ。その後はジャスパーにも行くつもりだ」
と答えてきたので、
「おおー、バンフとジャスパーなら、8年前に行ったことがあるよ。」というと、
「どうでした?」と聞かれたので、
「素晴らしい所です。レイクルイーズ、ペイト湖、コロンビア大氷河などなど。自転車で行って来ました」といったら、
「自転車?信じられない。私達には無理だわ」と笑われてしまった。逆に今度は俺の方が
「今日はどちらにいかれてたんですか?」と尋ねると、
「バーサレイクだよ。」と返ってきたので、思わず俺も身を乗り出していろいろと情報を尋ねることにした。バーサレイクは一応、明日の予定の第2候補に入ってたからだ。最初の1時間くらいはフラットなコースで滝が見れるとの事。その後はスイッチバックをしながら登りに入っていくことがわかった。登りから結構ハードと聞いたので、
「やっぱきついのか〜、どうすっかな〜」と迷ってしまった。資料をもってきていろいろ検討しようと思い一旦部屋に戻ることにした。部屋にはプールから帰ってきたオージーの連中がいて、例のガタイのしっかりした青年が、
「おう!今日はどこにいってきたんだい。」と聞くので
「ボートクルーズとベアーズハンプトレイルに行ってきたよ」と答えると、
「ベアーズハンプか。俺らも昨日行ってきたよ。景色、綺麗だったろ?」というので、
「おお、すっげー綺麗だったよ。君達は今日どこにいってきたの?」と尋ねると、
「クリプトレイクさ。」というので、
「クリプトレイク?俺も明日行こうと思ってるんだけど、どう?きつい?」と質問すると、その青年は考えながら、
「う〜ん、かなり距離があるけど、そんなにきつくはないよ。」というので、この言葉で俺は心の中で、
「よし!明日はクリプトレイクに決定だ!」と決めることにした。

 資料を持って、再びキッチンへ行く。例のカップルと会話が盛り上がってきて段々旅そのものも楽しく感じるようになってきた。話の中で、カップル達に明日クリプトレイクに行くと言う話をすると、男性が、
「あの人が今日クリプトレイクに行ってきたみたいだから、聞いてみるよ」といって、その女性にいろいろと尋ねてくれた、そのクリプトレイクに行った女性曰く
「最初は森の中を登っていって、尾根沿いをトレーズして木がなくなると、スイッチバックの繰り返し…」と言ってるのがわかったが、どうもイメージがあんまりわかないので、結局は自分でいってみるしかないと思った。カップル達は今日のハイキングで疲れたらしく、早々と自分達の部屋に戻っていった。

 今度は、今日ウォータートンに着いたばかりの、おばさんが、俺の所に話し掛けてきた。このおばさん、ニュージャージーから娘さん息子さんの3人でやってきたそうだ。長女である娘さんは、高校生位、弟である息子さんは中学生だそうだ。息子さんはニキビ面の内気で甘えん坊タイプの少年だ。さっきからずっと、そのお袋さんに抱きついている。お袋さんも、人前なのを察したせいか、息子さんに小さな声で
「よしなさい」といって、息子さんを突き放した。
「あなた、明日クリプトレイクにいくの?」と言ってくるので、
「ええ、そのつもりですが。」
「じゃあ、お願いがあるんだけど。もしよかったら、うちの息子と一緒に行って欲しいの。まだ息子は迷ってるみたいだけど。私は娘と、バーサレイクに行こうと思ってるので」
「おいおい、まじかよ。俺みたいな英語をあまりしゃべれん外国人と一緒でいいのかよ」
と一瞬思ったけど。まあ、一緒に行くこと自体は別に苦ではないので、
「いいっすよ。」と承諾し、こんどは息子さんの方に
「明日はよろしくな!」と挨拶をしたが、息子さんは下を向いて、首を一生懸命横に振っている。迷っているのか、俺と一緒にいくのかいやなのか。多分両方であろうと思う。そりゃそうだろう、今日はじめて会ったばかりで、しかも英語をろくにしゃべれん変な日本人と行くなんて内気な性格であれば、苦痛この上ないと思う。そんな首を一生懸命横に振ってる仕草を見た後、俺とそのお袋さんは、つい顔をあわせてお互い苦笑いをしてしまった。あんまり負担をかけるのも悪いから、
「まだ考え中みたいですね。もし決まったら、いつでも声をかけてください」といっておいた。そのお袋さんも、
「ごめんなさいね。息子まだ考え中みたい。」と言ってくれた。
その姉弟達はテーブルの上に、地図、ガイド、友達に出すのであろう絵葉書等を机に広げて、一生懸命明日の行動の予定を立てていた。俺も今日一日の行動を日記に収めることにした。その後、空になったペットボトルに水道の水を入れ、冷凍庫に凍らすことにした。なぜならば、結構周りの人達をみていると、ペットボトルに水を入れてそれを水筒代わりに使ってる人が多い。確かに、毎回ミネラルウォーターを買うのも結構金がかさんでくる。俺の場合、最低でも1日に2本は飲んでるからだ。今朝もハイキングに行く人たちは、出かける際水道の水をペットボトルに入れてもっていく姿を何回も見た。それにここの水道水は結構冷たくておいしい。冷凍庫に入れておけば、明日までには、確実に氷結して、ハイキング中には常に冷たくておいしい水が飲めるかと思ったからである。時々タバコを吸いに外へ出るが、相変わらずシカがあちらこちらに出没していた。

 明日はハイキングなので、早めに寝ることにした。

(つづく…)