7/9Pincher Creek〜Waterton Lake N.P

*7/9 Pincher Creek〜Waterton Lake N.P.*
 朝、8:00に目が覚めた。窓のカーテンを開けると、まぶしい太陽の光が差し込んでくる。天気は快晴だ。まさに絶好の国立公園日和といってもいい。ぐっすり寝れたせいで、体調もだいぶよくなってきた感じだ。部屋の中にある冷蔵庫から昨日買っておいた、ミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、1/3程一気のみをする。とても冷えているので「シャキーン」と一気に目が覚める。そのまま部屋を出てドアの前に腰を下ろし、朝の一服を楽しんだ。昨日各部屋の前にずらっと並んでいた他の客の車はほとんどなく、既に出発してしまったようだ。

 腹が減ったので朝飯を食いに出かける事にしたが、街までは出るのが面倒くさいので、モーテルの隣にある、昨日ステーキを食べた同じ店にいく事にした。メニューは目玉焼きとトーストの定番メニューに決定。片面でなく両面焼きが個人的には大好きだ。パンはホワイト。よく「ライかホワイトか」とたずねられるが、発音の悪さで、「White please.」といっても、ライに間違えられる事が過去何回かあったが今回は大丈夫であった。料理が出てくるまでは、コーヒーを飲んでるしかない。日本の喫茶店のようなお洒落なカップではなく、いかにもガタイのでかいカナディアン風にあわせたような、でかいマグカップに並々と注がれてしまう。2杯も飲むと、それだけでお腹が一杯になってくるのと、胸焼けがしてしまいそうである。お茶代わりに日頃から飲んでる彼らにとっては、ちょうどいいのだろうが、日頃から俺は「生茶」を愛飲しているので、どうもあまり胃が受け付けてくれない。

 やがて、目玉焼きがテーブルの上に運ばれてきた。相変わらず量がすごい。今回は全部だいらげてしまった。部屋に戻り、荷物のまとめを行った。1泊だけなので、それほどザックから物を出してなかったのでそんなに時間はかからなかった。チェックアウトは10:00までだから、慌ててもしかたないので、部屋の中でのんびりと時間を潰すことにした。9:50頃になり、忘れ物がないか部屋の中を見回し問題な事を確認した後、部屋を後にした。フロントに行くと、昨日と同じようにスタッフが早口で言葉を俺に投げかけてくる。理解不能なので、ニコニコしながら適当に相槌を打っておいた。キーを渡して、チェックアウトがすんだので、
「Have a nice day!」とフロントのスタッフに声をかけて、その場を離れた。 予定より、30分程早くバスディーポに到着した。例のおじさんが荷物を運びながら、
「まだ30分あるぞ。そこのスーパーで買い物でもしてたらどうだ。」と言って来るので、
「いや、ここで待ちますよ。」と答えた。

 日差しが強いせいか、外はとても暑い。皮膚がヒリヒリと痛みを感じてくるのがわかる。そのかわり日陰に入ると結構涼しい。

 ふと、対抗車線の歩道をみると、若い二人組みのお姉ちゃんがビキニ姿で街の中をあるいてるではないか。暑くてそんな格好をしてるのか、日焼けを兼ねてそんな格好をしてるかわからないが、理由なんかどうでもいいのだ。ビキニ姿の姉ちゃんがいる。それだけでいいのである。
「(う〜ん、ビキニはいい)」思わずうなってしまった…。




 11:00になり、例のおじさんがやってきた。
「そろそろ、いくぞ」というので、慌てて荷物を担ぎ上げ車の後部座席にそれを置いた。車はフロントガラスにひびがはいった、おんぼろビューイックであった。
「どこに泊まるんだ?」と聞くので、
「ホステルに泊まろうと思います。」と答えると、
「予約はしてあるのか?」
「いえ、予約はしてないです。だめだったら、キャンプ場に泊まります。」と答えた。
「そうか、ホステルの会員証は持ってるのか?」
「もちろん、持ってます。」といいながら、日本で申し込んだ、会員証を見せた。ホステルの会員証は昔は街中の受付事務所か郵送で申し込む形であったが、最近はインターネットから申し込み用紙をプリントアウトして近くのコンビニで振り込めばそれで登録ができる。便利な世の中になったものだ。
「ところで、ここからどのくらいかかるのですか?」とたずねると、
「1時間くらいだ。」とおじさんは答えた。
車はピンチャークリークの町をでると、ひたすら大草原の中に突入した。天気もいいからなんともいえず気持ちのいいドライブだ。



はてしなく道がつづく...(草原地帯にまっすぐ伸びる道。う〜ん、すばらしい。カールさんの車から)


「ところで君は、何泊くらいウォタートンに滞在するのか?もしよければまた迎えにくるぞ。」というので、
「えっ?本当?でも、う〜ん、まだ決めてないです。」と答えた。正直そこまであまり考えてなかった。その場所が気に入ればある程度長く滞在し、気に入らなければさっさと引き上げてこようと思ってたからだ。ただこれはガイドブックに書いてあったバスが運行していたときの場合だ。現在バスがないので、交通手段はタクシーか、このおじさんに頼らなければならない。
「たぶん、3泊か4泊の予定です。もし、決まったら。電話をしてもいいですか?」というと、
「そうだな。それがいい。前日までに電話をくれればいいぞ。何か書くものはもってるか?」と聞いてくるので、手元にあった紙を彼に渡した。彼は運転をしながら、自分の電話番号を紙に書いて俺に再度手渡した。
「上の番号は事務所の番号だ。下は、私の自宅の番号だ。15:00以降は自宅にいるので。下の番号に電話をしてくれ。私の名前はカールだ。」と説明してくれた。
「わかりました。私の名はB-Yです。宜しくお願いします。」と俺は自分の名前を告
げた。
「ところで、ピンチャークリークからウォータートンまでのバスって、ないんですか?私の持ってるガイドブックには、サウスウエストアルバータバスというのがあると書いてあるですが」と尋ねると、
「ああ、それは去年廃止になった。全然客がいなくてね。こっちからバスを出しても、ウォータートンで誰も乗る人とかいないから。俺は、そのバスの運転手をやってたんだ。」
と、答えてきた。確かに、グレイハウンドで乗ってきて、ウォータートンに行くのは俺しかいない。ガイドブックをあまり信用するのも、考え物だなと思った。

 車のラジオからはカントリーミュージックが流れている。俺は外の景色を眺めながら、ぼーッとたそがれていた。なんともまあ、牧歌的な風景である。青い空、白い雲と大地の緑の3色しかない。しばらく沈黙の後、カールさんが再び話し掛けてきた。


(のどかな風景だ)


「次はどこにいくんだい?」
「カルガリーです。」
「スタンピートフェスティバルを見に行くのか?それともただ寝るだけか?」というので、
「いえいえ、サスカトゥーンに行くので、カルガリーはただ経由するだけです。」
「そうか。カナダにはどの位滞在するんだ」
「一ヶ月の予定です。一昨日、バンクーバーに着いたばかりで。」
「日本からカナダまで、どの位時間がかかるんだ?」
「だいたい、11時間位かな。」
などと、とりとめのない話をしながら、車はどんどんとウォータートンへ向かってゆく、やがて景色は、緑の草原地帯に岩肌を剥き出しにした、灰色の山々が見え始めてきた。「おお!すげー」と思い、写真を何枚かとることにした。ガイドブックにウォータートン国立公園は「平地と山が出会う場所」と書かれている。普通、山の地形は、平地−丘陵地帯−木が多くなる−だんだん坂が多くなる−山岳地帯と、徐々に風景が変化していくものだが、ここはそのガイドブックに書かれている通りである。木もない草原地帯に急に険しい岩肌を剥き出しにした山とその麓にある森林が現れてくるのであった。




(おっ!山が見えてきたぞ!)


 そんな、風景の写真をとってるとカールさんが、
「見ろ。あれがチーフマウンテンだ。」
と、いってくる。チーフマウンテンと言われても、俺にはなんの山だかさっぱりわからず、カナダでは有名な山なのかな?と思い、
「有名な山なんですか?」
と、尋ねると、




(ピンボケですんません。マグカップの左上にある。「ポコ」っとでてる山がチーフマウンテン)


「アメリカ国境を渡るには、あの山を目指すんだ」
「はぁ、そうですか〜」
と、答えるしかなかった。その後、カールさんは、別の会話をしてると何故か突然会話を遮るように、何回も
「見ろ、チーフマウンテンだ」と何回も繰り返してくる。
「あぁ、何回も見たよ。おっさん、何が言いたいんだよ。」と、表面では笑顔をつくろいながらも、内心ちょっとうざいと感ずるようになってしまった…。ひっきりなしに「チーフマウンテン」を宣伝する、カールさんに対して、今度は俺の方で話を遮るように、
「あっ、すいません。帰りの件だけど、4日後の金曜日でお願いしていいですか。」
と回答をだした。車に乗りながら、いつウォータートンを経つのを今後のスケジュールを考えながら、ひたすらシュミレーションをしてたのであった。適当に4日も滞在すれば、十分だろうと判断したからである。後、電話をするのも、会話がいまいち上手くないので、この場で決めた方が楽だと思ったからだ。
「わかった。では、金曜日の14:00に迎えにいくよ。」
「宜しくお願いします」
と俺は答えた。
 
 車は国立公園のゲートをくぐる。車だと国立公園に入るには、管理費か通行料かわからんが金を取られる。幸い、カールさんが年間パスをもっていたので、そのパスを提示しただけで通過することができた。公園内に入ると、景色はガラッと変わるのがわかる。さっきまでのどかな草原地帯から一気に山岳地帯に入ったしまった感じだ。
 
 小高い丘の上に、大きな建物が見えてきた。カールさんが、
「あれが、プリンスオブウェールズホテルだよ。」と説明してくれた。
「なんだか高そうなホテルですね。」というと、
「ああ、泊まるのも高いが、その他も高いぞ。ビール一杯5ドルもするんだからな。街で飲めば3ドル位だよ。」
と笑いながら教えてくれた。



(これがプリンスオブウェールズホテル。絵葉書から掲載)

「観光案内所はここだから。あと、この裏からベアーズハンプのトレイルコースがある。そこから見る景色はとてもきれいだから、言ってみた方がいいぞ。」
と教えてくれた。その後車で、国立公園内にあるタウンサイトをいろいろと案内をしてくれた。郵便局、警察署、レストラン、酒屋、スーパー等など。とても小さい街だから、車で20分も周れば一通り把握ができる按配だ。

 すると、道路に鹿の親子連れが横切ってくるではないか!
「おお!鹿だ。」
と、俺が叫ぶと、カールさんは見慣れてるせいか特に驚く様子もなく、 「あんまり野生の動物には近づかない方がいいぞ。年に何人か、鹿の角に突っつかれてケガ人がでてるからな。」
と教えてくれた。俺はなんだかわくわくしてきた。民家のある所に野生の動物が堂々と現れる。ガイドブックにも「我々人間が、野生動物のテリトリーに住まわせてもらってる」と書いてあったが、まさにその通りの感じがしてきた。鹿の子供はディズニーの「バンビ」のように背中に白い斑点があり、とてもかわいい。

 街案内も終わり、早速本日の宿泊であるユースの手続きを行う為、レセプションセンターの前に着いた。カールさんが英語の不慣れな部分を察してくれてフロントでスタッフに説明をして下さった。ユースは空きがあったので、すんなりOKが取れひと安心。もしユースが取れなければ、国立公園内にあるキャンプ場を利用する覚悟で臨んでいたのだ。一通り手続きを済ませたがユースのチェックインが16:00からなので、後4時間以上、どこかで時間を潰さなくてはならない。とりあえず、くそ重いバックパックをレセプションセンターに置かせてもらう事が出来たのだが、フロントのお姉ちゃんが俺のバックパックを保管場所に運ぼうとしたら、あまりの重たさに驚いて、
「重い!悪いけど自分で運んで。」と言われてしまった…。
荷物を置き、カールさんに礼をいって別れた。なんだか、バンクーバーのおばちゃんといい、カールさんといい、世話になりっぱなしである。一人で旅をしても、なんだかんだいいながら、いろんな人に助けられながら旅してるんだな〜と、ふと思ってしまった。

 再び一人ぼっちになり、レセプションセンターの前でタバコを吸いながら、これからどう過ごすかぼーっと考えてしまった。

(つづく…)