第7話7/8バスの中

*7/8バスの中*
 バスに乗ってから、早10時間が経ったが、外は相変わらず雨が降り続いている。無理な姿勢で、寝ようと試みていた為か筋肉痛と肩こりがひどくなってきている。
「あ〜、辛い。バス旅はこんなに辛いものだったのだろうか?」と早くも考えるようになってしまった。過去2度のバス旅を振り返ってみても、辛いと感じた事はあまりなかった。せいぜい夜行バスを2日連続で乗った時くらいだ。
「歳をとってしまったせいなのか?それとも風邪が原因か?」と自問自答を繰り返す。

 旅は体力勝負だと思う。特に海外だと体力というのがもろに問われてしまう。異国の地を訪れるにあたっては、新鮮な光景、文化、など様々な感動や驚きを与えてくれる代わりに自分の体力というのを奪っていく。

 7/7に成田を出発を基点にして約27時間のうちまともに寝たのはたったのは1時間。日本で出発日に起床した時間かを基点にすれば約33時間も寝てないことになる。どう考えても辛くなってくるのは当然だ。

 朝の7:00頃、バスはとある街に着くと朝食の時間をとる休憩に入った。休憩時間は約40分。バスはごく普通のダイナーの前に停車をし、乗客が何人か降りていく。俺もものすごく腹が減っていたので、真先に降りダイナーへ入った。

 店の中に入るとすぐ、ばかでかいホワイトボードにその店のメニューが手書きされてりる。その中でひときわ大きく書かれていた「SPECIAL BREAKFAST」を頼む事にした。

 やがて、運ばれてきたその皿の上にのっかってる量をみて愕然としてしまった。どうみても朝から食いきれる量ではない。とくにベイクドポテトの量がはんぱではない。

 カナダでは、これが普通の量なんだろう。まわりの客を見渡すと、そんな食いきれない量がでてくるのを察してるかのように、朝食にはいかにも丁度いいくらいのサンドイッチを頼んでる人が多い。

 とりあえずもう頼んでしまったのだから仕方がないので、ポテトと目玉焼きにケチャップをかけて食べることにした。ベーコンがとても食べづらい。カリカリに焼きあがってるのはいいのだが、冷めてくるととても固くなってくる。フォークとナイフを使って切ろうとしてもなかなか切れない。しまいにはカチャカチャと音をたててしまうので、フォークだけを使ってあとは歯で噛み切ることにした。

 案の定、全部食べる事は不可能なので、大半のポテトを残してしまった。食後はまだ時間があるので、いったんダイナーの外にでて、軒下で雨宿りをしながら食後の一服を楽しんだ。タバコをふかしながら空を見上げ、「ウォータートンでは晴れてくれるのだろうか?」と心配になってきた。国立公園は景色が要なのでどうしても晴れて欲しいのだ。

 出発の時間となったので、バスに乗り込む事とした。一晩明けた時点でもまだブリティッシュコロンビア州にいる。アルバータ州はまだまだ遠い。

 大小様々な街を走り抜けていくバス。そしてディーポに停まる度に、人々は別れを惜しんで抱き合ってる人達をよく見かける。泣きながら見送る人達、笑いながら見送る人達、その逆に久しぶりの再会を喜ぶかのごとく抱き合ってる人達もいる。そんなドラマのような光景を見ていると、バスはただ人や物を運ぶだけでなく、その人々の様々な希望、期待、不安などを送り届けてるような感じがしてきた。

 午後に入り、ようやくアルバータ州に入った。同時にいつのまにか雨が止んでいたことに気づいた。
「あともうすこしだ」そう考えると、苦痛と感じてたバスからようやく開放されるという気持ちが出てきて、少しは楽になってきた。

 すると急に外の景色が開けた感じになってきた。ついさっきまでは、道路の両脇に灰色をした山が圧迫感を与えるように存在していたのだが、その山が切れると目の前は草原地帯が広がっていた。

 思わず「おお〜、すごい。」と呟いてしまった。景色の変化の展開があまりにも急すぎなのだ。徐々に高い山、低い山、森と少しづつ変化をしていく景色ならまだしも、突然トンネルを抜けたような感覚に陥ってしまう感じだ。

 目の前の景色は永遠につづく牧場のような感じがしてならない。こんな展開の旅が出来るのもバスならではだ。苦痛を感じてまでのったバス旅もようやく報われるような気持ちで一杯になった。


(山を抜けるとそこは草原地帯であった)


 草原地帯は最初はモコモコと凹凸があったが、やがてその光景は少しづつ平らに変化をしていった。


(一面の緑色に一本の灰色の線がひかれてるようだ)


(つづく…)