*7/7グレイハウンドのバスの中*
バンクーバーのバスディーポ。カナダ各地からやってきたバス、これから各地へ向かうバス等ひっきりなしに出入りしてました。(写真の日付を直してなかった。7/7が正解です)
いよいよバスでの旅が始まる。なんだかわくわくして仕方がない。ちょっとここで俺が敢えてバスの旅を選んだのか過去2回(アメリカ・カナダ)の利用の経験を踏まえて長所と短所をあげてみよう。
<長所>
1:まずバスを利用する際は予約の手続きがいらないのである。バスディーポに行ってチケットカウンターで行き先を告げて運賃を支払うだけでいいのだ。後は乗るだけ。乗る人が1台のバスに入りきらなければ、臨時でもう一台バスを出してくれる。ただし、始発のところからでは、バスを増やすことはするが、辺鄙な小さな街から乗る際だと満車の場合は次のバスを待てといわれることがある。いずれにしても行き当たりばったりな旅をする人にとって、とても都合のいい移動手段となる。
2:広大な土地を肌で感じながら移動ができる。当然のことながら陸路での移動であるため、様々な車窓の景色が楽しめる。山、森、荒野などなど。ただ国がでかい為、ずーっと同じ景色というのもありえる。夜行も走っているので月光に照らされる、荒野の景色なんかも神秘的できれいだ。また、ガイドブックにも乗ってないような小さな田舎町にも停まるのもバスならではの旅だ。
3:他の乗客と仲良くなれたりできる。結構向うから気軽に話し掛けられたりする。英語がもっと話せれば更に楽しさが倍増するのだがといつも思ってしまう。もちろん一言も誰とも口を聞かないこともあるけど。まあ、運次第かな。
4:夜行便で移動して宿代をうかすことができる。
これはなかなか一石二鳥的な行動なので、捨てがたい利用法だ。時間とお金を両方節約できる。
他にもいろいろあるけど、長所の点は大方3つ位です。
<短所>
1:疲れる。
これが一番のデメリットだと思う。特に夜行便を利用した際なんて、もうボロボロになる。人にも寄るかもしれないが、バスの中はあまり寝れない。寝たとしても疲れがとれないのである。せいぜい8時間位の乗車が望ましいと思う。20時間以上も、ぶっ続けで乗ってると苦痛極まりない移動となってしまう。夜行便も連続2回以上はやめたほうがいい。元気のある方なら問題はないが、そうでない人は疲れ果ててバスに乗るのが嫌になってくる。
そんな訳で、これからのバス旅に於いて俺は頭の中で「のんびり車窓の景色を眺め、携帯ラジオから大好きなカントリーミュージックのFM放送を聞きながらたそがれるのだ。」と想い描いていた。今回の旅のテーマは「たそがれ」なのだ。気に入った景色があれば、「ぼーっと」たそがれるのである。焦らず、のんびり、気ままに、バス旅はそんなスタイルにはうってつけの手段だ。
座席は前から2列目を確保する事ができた。グレイハウンドに乗るのなら極力前の座席の方がいい。運転手の目に届く範囲なので、セキュリティ的にも安全だし前面の窓からの景色も楽しめる。後部座席の方だと、トイレがあるため人がしきりに行ったりきたりして落ち着かないのだ。後ガラの悪い人たちは何故か後部座席の方に集中する。但し前の座席は老人が占拠してることが多いので、早めに並んでおくことが必要となる。
乗客が次から次へとバスへ乗ってくる。若い女性客は特に片手にでかい枕をかかえて乗ってくるが、最初は不思議と思っていたこの枕も車内に乗ってきて初めて理解が出来た。
彼女らはこの枕を縦にして窓側へ置き、それをクッション代わりとしているのだった。確かにバスの窓側は凹凸があるため、寄りかかると背中や腕が痛くなってくる。密室的な長距離バスを快適に過ごすには必需品といえるかもしれない。
世話になったおばちゃんもバスに乗ってきた。彼女は後ろの座席に座るため、私に
「じゃあ、気をつけてね」と言ってきた。私もすかさず、
「お世話になりました。」と笑顔で告げた。
グレイハウンドのバスの中の構造は真ん中に通路を挟んで、左右にそれぞれ2列のシートがある。最後部の右側にトイレが付いている。窓の上には、荷物棚がある。走行中荷物が落ちてこないように、上下に開閉するフタが装備されている。8年前に乗った時には付いてなかった、ビデオを見るための小さなモニターが棚の下に幾つか設置されている。窓は大きく開閉の出来ない密閉式のやつだ。斜光用にスモ-クが張られている。
バスの中は結構乗客が多いため混んでいる。幸い私の隣の席には誰も座らなかったので2列分まるまる占有ができた。
出発間近になり、ゲートの受付をしてた中国系のお姉ちゃんが、片手にビニール袋に入ったヘッドホンを持って乗客に売りにきた。モニター用のビデオをみるためのヘッドホンだ。1個3ドルだという。今日の映画はジム・キャリー主演の「マジェスティック」を上映するというので、
「おッ、マジェスティックといったら日本ではこれから封切される映画ではないか。封切される前に見れるなんていいな。」と思いながら、ウォークマンに付いてるヘッドホンを試しに、前の座席にあるプラグ挿入口に差し込んでみるとピッタリ合ったので、「これでヘッドホンを買わなくてすむ。」と一人ほくそえんでしまった。
18:00になり、定刻どおりいよいよ出発だ。ピンチャークリークに到着するのは、翌日の15:25の予定。約20時間の旅だ。出発すると、すぐ運転手がマイクを使って様々な注意事項やこれからの予定についてアナウンスを始める。乗客にジョークを交えながら何かを話している、車内は時々笑いがうずまきなかなかいい雰囲気だ。当然英語なので俺には何をいってるのかさっぱりわからないが、そんな雰囲気のなかで周りが笑ってるとついこっちもつられて笑ってしまうのだ。
バスはダウンタウン、住宅街を抜けると一気にハイウエイにでた。同時に本格的に雨が降り始めてきた。窓の景色をぼんやり眺めていると、モニターに「パッ」と画像が映し出され、ビデオの上映が始まった。
早速ビデオでもみようとヘッドホンのプラグを差し込んだが、すぐに止めてしまった。何故かと言うと、ここはカナダ。英語で上映するのは当然だが日本語の字幕なんて出るわけないのだ。
ビデオは諦め、再び車窓の景色に没頭する。雨が降っているため、景色もよくなく見ててもつまらない。すれ違う車は、週末どこかでキャンプを楽しんできた人が多いのか、やたらキャンピングカーが目立つ。ふと、不思議なキャンピングカーがあるのが目に付いた。
普通、キャンピングカーというと小さなものだと車の荷台に併設されてたり、もしくは、4WDの車が切り離しのできる、キャンピングカーを牽引していくものと認識を持っていたが、目に付いたキャンピングカーは日本でいう路線バスくらいの大きさがあり、そのキャンピングカー(バスといったほうが正解かもしれない)が乗用車を牽引してるというおかしな光景を見ることができた。乗用車には排気ガスやタイヤからの水しぶきでよごれないように、フロント部分だけカバーをかけてある。それも一台ではないのだ、次から次へとそんな、光景を目にしてしまう。そのキャンピングバスをベースにして車を足代わりに使うのだろうか?キャンピングカー&バスにはカヌー、MTB、中にはバイクまでくくりつけて走っている光景が見えて面白い。
車窓からみえる光景は、そんな訳で様々な思考するネタを提供してくれる。そんな光景をみて思考を働かせるだけでも、結構楽しい。景色はつまらなくても、眺める視点を変えればいいのだ。
最初のバスディーポに着いた。乗客が結構降りていく、代わりに乗ってきたのは何人かの高校生風のバックパッカーであった。親御さんたちが車で送りに来て名残惜しそうに我が子を見送っている、サマースクールか何かに行くのであろうか?
バスの中は全面禁煙なのでタバコが吸えない。そんな訳でバスがディーポに停車する度に喫煙者達はここぞとばかりに一斉に降りていく。運転手も停車をするごとに乗客に向かって「XX分ここに滞在する、タバコを吸いたい人や、軽くストレッチをしたい人はどうぞ。」と告げるが、俺はバスをいったん降りる際は、念を押す様に必ずもう一度運転手に
「どのくらい停車しますか?」と聞くように心がけている。そうでないと、時間を聞き間違えたりして、へたすると置いてきぼりを食らうはめになるからだ。大体は時間通りに発車をするが、運転手によっては、その人の気分によって予定より早く出発したり、遅く出発したりするときもある。バスが発車をする際、運転手は乗客の数をカウントはするものの、たまにだが停車した後、何らかの事情で戻ってこない人もいる。
それでも発車し、乗客があわてて、
「運転手さん、俺の隣に座ってた人がまだ戻ってないので、ちょっと待ってくれ!」と言う場面もたまにだが見受けられる。
そんな訳で、バスの休憩時間はほっとするのと神経を使うのが入り混じった場なのである。
運転手がバスに戻ってくると、喫煙者達はもう当分吸えなくなるタバコを名残惜しむかのように、最後の最後までむさぼるようにして吸いおわらせる。そして慌ててバスへ駆け込んでいくのであった。
再び出発。時刻は20:00を過ぎているが、外はまだ明るい。夕方ぐらいの明るさだ。カナダの夏は緯度が高い為、この時間帯でも明るいのだ。バスは山のなかのハイウエイをグングンと進んでいく。23:00頃を過ぎると辺りはもうまっくら、雨はひっきりなしに降り、時折遠くでカミナリの稲光がカメラのフラッシュのごとく光っているのがみえる。
出発当初混んでたバスも、最初の2〜3回の停車で半分くらいが降りていったので、各々が2列のシートを独り占めにしてゆったりとくつろいだ格好で寝に入り始めて来た。
23:00頃、とある町に着き10分位の休憩がはいった。俺を含めた喫煙者は待ちにまったとばかりに降りていく。2列のシートを独り占めにしたとしても、ある程度の姿勢しかできないので、やはりバスから降りたほうが開放感が味わえて気分はいい。外の気温はとても寒い。
例のおばちゃんが降りきた。最後にもういちど礼を言おうと近づいたが、彼女はそんな私に気づかず、迎えに来てもらってた男性の方へと歩いていき、熱い抱擁を交わしてた。旦那さんであろうか?そんな中に割って入るのも野暮なのでそっとしておくこととした。彼女が降りていったことで、ここばウエストバンクというところと理解した。
街をでると、再び山の中に入りバスはひたすら走り続ける。もう真っ暗なので景色を楽しむこともできない。すれ違う車もほとんどない。いったいカナダのどの辺を走ってるのかもわからないのだ。深夜になると、まわりの人はほとんど寝ている。しかし俺は何故かねれない。目をつぶったりとかするが全然寝付けないのだ。大きな枕を上手に利用しているお姉ちゃんたちは気持ちよさそうに、すやすやと寝ている。そんな姿を見てると羨ましくてしょうがない。中には毛布まで持ってきてる人もいる。
グレイハウンドのバスのエアコンの効きははんぱではない。夏でも、絶対にセーターやトレーナーは必要だ。ものすごく寒いのである。半袖のTシャツ1枚ではものすごく辛いであろう。暑がりの俺でさえ寒く感じるということは、普通の方には耐えがたい条件だと思う。そんなエアコンが効いてる環境なので、再び咳がひどくなってきた。薬を飲み、咳がひどくなる度にミネラルウォーターを飲んで喉を湿らせるようにする。そうすると一時ではあるが咳が収まるのだ。あとはこれの繰り返しだ。
強引に寝ようと思ってしばらく目をつぶっていたが、今度はバスが突然急ブレーキを踏み始めた。思わず座席から転げ落ちそうになったが、起き上がってバスの前方を見ると、1匹の野生のシカが道路を渡ろうとしてるではないか。シカの目はバスのライトに反射し光っている。しばらくバスとシカのにらめっこが続いたが、シカは山の中に消えていき、バスは何事もなかったように、再び走りはじめた。
結局バスの中でも寝ることができなかった…。
(つづく…) |