*2002年7月7日 バンクーバー(曇りのち雨)*
結局飛行機のなかでは爆睡をしてしまったが、疲れは一向にとれん。だるさだけは残ってる。飛行機を降りる際、スチュワーデスが出口のところで何かを配ってる。受け取るとまた税関申告書だ。
「また、書くの?めんどくせー。」と思っても仕方ない。アメリカの次はカナダに入国をしたのだ。国が変われば仕方の無い事とわかってはいるが、めんどうくさいのである。幸いガイドブックに申告書の記入例が載ってたのでそれをみて、ぱらぱらと書いてしまった。
再び入国審査のゲートに並ぶ。どこの窓口も長蛇の列だ。そして何故か周りはインド系の人たちが多い。ようやく自分の番がきて、窓口へ向かうと、日系人っぽい係官が「How are you today?」と事務的に声をかけて来る。俺は何故か、「イエス」とわけのわからん返事をしてしまった。普通なら「fine」とかいうのが言うべきなのだが、緊張してるのか、疲れてるのかついそんな返答をしてしまった。係官はそんな返答を無視するかのように俺のバスポートをめくり、おきまりの質問をかけてくる。
「カナダへは何をしに」
「観光です」
「どのくらい滞在するの?」
「一ヶ月」
「どこに行くの?」と聞かれ、訪れる都市全部答えるのもめんどうだから適当に、
「ジャスパとウォータートンレイク国立公園です」
「何?どこ?」
「ウォータートンレイク国立公園。」と再び答えても通じない、2〜3回同じ言葉を繰り返してもダメである。「発音が悪いのかな?」と思いながら、「そうだガイドブック」をみせようと思い。
「ちょっとまって、ガイドブック見せるから」と係官に言い、ウォータートンレイク国立公園の項目が載ってる所を開き係官に提示した。日本語ばかりだが、項目の上に英語で表記がされてるから多分大丈夫であろう。係官はガイドブックを取り上げて、
「見たことねえなー」とつぶやいたが、俺がジェスチャーを交えながら、
「ここの公園はアメリカのモンタナ州にあるグレイシャー国立公園と隣接してる所です」と説明したら、理解したらしく、ようやくパスポートに入国許可のスタンプを「バン」と押して、
「GOOD LUCK」といいながらパスポートを「すっ」っと返してくれた。
くそ重いザックを再び受け取り、税関の係官が、
「肉とか食べ物は持ち込んでますか?」と質問してきたので、
「ないです」と答えたら、そのまま素通りで通過することができた。ようやく無事カナダに入国することができ、まっさきに向かったのがタバコを吸える場所である。空港内は当然禁煙だから外にでるしかない。
空港の出入口から外にでると、すぐ横に円筒状の灰皿が「でん」と置いてあった。ズボンのポケットから、しわくちゃになった残り少ないマイルドセブンスーパーライトを取り出し、ジッポに火をつけ、カナダについて最初の一服を思いっきり味わうことにした。
「ぷは〜、あ〜、やっと着いた。疲れたな〜。」とひとり言をつぶやいた。タバコを吸われる方ならわかると思うが、長時間タバコを吸わない状態を過ごした後の一服は頭がくらくらしてくるのを感じる。
目の前の道路はタクシー乗り場になっている為、タクシーは長蛇の列となり、そして空港から出てくる客を次々と乗せ走り去っていく。
「さて、これからどうするか?」と悩んだ。正直風邪の状態がおもわしくない。咳はひどくなるし(それでもタバコを吸ってしまってる)、頭がぼーっとしてきてる。30分くらい悩んだ挙句、今日はバンクーバーで1泊しようと決心した。スケジュールは余裕をもって組んであるので、1日位のんびりしても全然問題は無い。それに汗だくなので、シャワーもあびたい。取り敢えずは、グレイハウンドのバスディーポ(カナディアンはバスターミナルと呼んでいる)まで行ってその辺の宿を取ろうと考えた。バンクーバーは旅の最後で戻ってくるので初日から観光などする気もない。あくまでも今日は体を休めるのが先決だ。スケジュールは余裕を持って組んで正解だと思った。
今日の予定が決定したのであとはそれに従うのみ、そう思うと悩むことも無いのでちょっと元気がでてきた。空港内でミネラルウォーターと絵葉書を出すための切手を購入し、市バスのバス乗り場まで歩いていく。タクシーだと金がかかるから(空港からダウンタウンまでチップ込みで約24ドル)、バスだと2ドルだ。今回の旅の予算は1日100ドルと考えている。かといってあまり贅沢するつもりはない。抑える所はなるべく抑えていきたいと考えてる。これからの旅の行程で、高い出費をせざるえない可能性もあるし、たまには贅沢をしてみたいという気分も当然でてくるので、そんな時の為に蓄えておかねばならないからだ。
バス停は空港に向かって国内線到着ロビーの一番左端にある。今回の頭痛の種であるクソ重いザックを背負いながらトボトボとバス停まで歩いていった。
空港からダウンタウンへ市バスに乗るにはまず#100か#404に乗らなければならない。バス停で15分くらい待ってると、ようやく#100のバスが来たので乗り込む事にした。バスの運転手に、
「グレイハウンドのバスディーポまで行きたいのだが」と伝えると、
「乗り換えが必要だ。エアポートループという所で降りて#98のバスに乗れ。そしてXXX」とあとは英語が聞き取れなかったのでめんどうくさいから、
「そこに着いたら教えてください。」と頼み込んだ。これが一番いい方法だ。教えてもらう身分だから運転手の近くにいないとだめだ。エアポートループという所に着くと、運転手さんが、
「ここだ。あそこのバス停で乗り換えなさい」と指をさして教えてくれるので、
「ありがとう」といってバスを降りた。他の乗客もほとんどここで降りる。
#98のバスは5分もしないうちにやってきた。バンクーバーの市バスは初めに乗車をすると、トランスファーチケットをもらえる。確か90分以内であれば、乗り換えはこのチケットを提示するだけでいい。チケットを提示しながら再度、
「グレイハウンドのバスディーポに行きたい。」と運転手に告げると、
「XXXで乗り換えが必要だ」と行ってくる、正直言ってることが早くて英語が聞き取れない。「すいません。もう一度ゆっくり話してください。」と申し出ると、誰かが俺の肩をぽんぽんと叩くの振り向くと、おばちゃんが、
「あなた、グレイハウンドのバスディーポに行くの?私もそこに行くから、連れてってあげるわ」と言うではないか、
「え?本当。御願いします」と俺は頭をさげた。「いや〜、めでたしめでたし。後はもう安心だ。」とほっとしてしまった。8年前にここに訪れたときは1回の乗換えで済んだんだのだが、そんなことはもうどうでもいい。バスディーポまで行ければ後はなんとかなる。
荷物をバスの乗車口の脇にある置き場に置く。やれやれと座席に座ってほっとすると、例のおばちゃんが、
「あなたどこから来たの?これからどこまでいくの?」と訪ねてくるので、
「日本から来ました。今日シアトル経由でついたばかりです。これからウォータートンレイク国立公園に行く為、ピンチャークリークにバスで行きます。」と答えた。
「ピンチャークリークってどの辺なの?」というので、地図もないから説明ができな。すると、俺の対面に座っていたガタイのある青年が、
「ピンチャークリークか。国道何号線をXXX(後は聞き取れん)」とおばちゃんに説明を始め出した。彼もバックパッカーで、これからフェリーに乗ってバンクーバーアイランドへ行くそうだ。青年は今度は私に、
「ウォータートンレイクか〜。釣りでもしに行くのか?」と尋ねてくるので、
「いや釣りはしない。道具もないし。」というと
「じゃあ、何しにいくんだ?」と尋ねてくる。どうも彼の話を聞いてるとウォタートンレイク国立公園は釣りで有名な所らしい。トラウトが沢山つれるそうだ。
「トレッキングだ。」
「ん?トレッキング?」と首を傾げる。どうもトレッキングというのが通じないみたいだ。
「ハイキングだよ。」というと、
「おー、ハイキングか。いいな。日本でもやってるのか?」
「いや、めったにやらない。釣りの方をメインにやってるよ。」
おばちゃんも再び会話に加わって3人で会話を始めたが、だんだん英語がわからなくなり、適当にあいづちを打ちながら、そのうち会話には加わらず、どんよりした空のバンクーバーの景色を眺め始めてしまった。英語を聞くにはどうしても神経を集中しなければ、ならない。日本語を聞くように、さらっとした感覚を持ち合わせてはいない。俺の英語力はあまりにも「Poor」なのである。
窓の景色を眺めると、大きな橋を渡っている所だった、下は海。製材業が盛んなこの国を象徴するかのように、海には沢山の材木が浮かんでいる。
市バスが郊外の住宅街からダウンタウンに入ると、おばちゃんが、「そろそろ、降りるわよ。これからスカイトレインに乗り換えるの」というので、
「OK」といい、運転手の横にある荷物置き場から、くそ重いザックを担ぎ降車の準備をはじめた。バスが揺れるので思うようにザックが担げないでいると、例の青年が
「すごい荷物だな。手伝ってやるよ。」といい、そのガタイに似合うパワーでザックを持ち上げてくれた。丁度バスはスカイトレインの「GRANVILL」の近くに停まったので、
「すまない、ありがとう。いい旅を。」といい、俺はバスを降りた。
バンクーバーを走る「スカイトレイン」はコンピューターによる自動制御の電車。ダウンタウンのカナダプレイスの近くにあるWATER FRONT駅〜東のKINGGEORGE駅まで約40分で走り抜ける。ダウンタウンは地下を途中STUDIAM駅より地上にでる。市バスのトランスファーチケットでも時間内であれば乗ることが可能だ。
電車にのって、
「どのくらいかかるのですか?」と尋ねると
「2つめの駅で降りるから。すぐよ。」と返ってきた。
しばらく沈黙が続いたので、なにか話をしないとと思い。
「バンクーバーは8年前にも来た事があるんですよ。いい街ですね。」と切り出すと
、「そう。いい街よ。私も以前ここに住んでたの。」と返答がきたら、スカイトレイン
は我々が降りるMAIN駅に到着してしまった。
駅の階段を降りると、一人の男がおばちゃんに
「電車のチケット必要ないのなら譲ってくれ」と言ってくる。ここのスカイトレインはチケットを買っても購入時の時間しか記載されていない。同じゾーンで90分以内であれば、どこでも乗り降り自由である。よってこうやって人から譲ってもらっても時間内であれば使用可能なのだ。
その男は俺のチケットもくれと言ってくる。もっててもしょうがないのでくれてやった。
MAIN駅を降りるとバスディーポはもうすぐ目の前だ。建物はでーんとした構えででかい。つくりはなんだかレトロ調な感じである。
建物は「PACIFIC CENTRAL STATION」という名称だ。ここはVIA鉄道とバスのディ-ポが併設されてる。)
駅まで二人でとぼとぼと歩く、
「私も昔東京にいったことがあるのよ。」と話を切り出してきた。
「えッ?いつ頃来たんですか?」と尋ねると、
「1962年よ。もうだいぶ昔だけどね。」と笑いながら答えてきた。
「1962年か〜。まだ俺は生まれてないよ。」と言いながら、このおばちゃんの年齢は大体このぐらいだろうと想像してしまった。
セントラルステーションの前に着き、おばちゃんが、
「あなた何時のバスに乗るの?」と聞いてくるので、
「今日はこの辺で宿を取って明日出発するつもりです。日本から出発して全然寝てないし、風邪を引いているので休みをとりたいと思っているので」と答えたら、
「そう、じゃあここでお別れね。」
「助かりました。ありがとうございます。」というと
「あの最後に御願いがあるんだけど、タバコ頂いていいかしら。アメリカのタバコ吸ってみたいの。あなたラッキーストライクをもっていたから。」といってくるので、
「いいっすよ。はい。」といってデイパックから免税店で買ったラッキーストライクのボックスを1箱渡そうとしたら、おばちゃんはびっくりした感じで。
「だめだめ。1箱なんて受け取れないわ。1本でいいの、1本で」というので、
「10箱持ってるから1箱差し上げますよ。免税店で買ったから安いし、1箱2ドルですから」といっても、おばちゃんは受け取ろうとしないので、自分の吸いかけのタバコの箱から5本位「むんず」と掴んで差し出すと、
「じゃあ2本頂くわ」と申し訳なさそうに受け取ってくれた
。(この時、まだカナダでのタバコ事情は全く気づかなかった。この後の旅の途中でいろいろと気づくこととなるが、カナダではアメリカのタバコはほとんどといって手に入らない。カナダ産のわけのわからぬタバコを吸うはめになってしまうのである。そして値段もとてつもなく高い。20本入りのタバコで約$8.50、25本入りで約$10だ。後になっておばちゃんが、びっくりして断るのもわかる気がする。この辺はまた後で詳しく書こうと思う。)
ひとまずおばちゃんと別れ、これからどの辺の宿にするかタバコをふかしながらぼーっと考え込んでた。ひとまず、バスのクーポンをパスに交換する為、駅構内に入る事とした。構内はものすごい人でごった返している。ここはカナダのVIA鉄道とグレイハウンドが併設されてる駅だ。建物の入り口から入って正面にVIA鉄道、グレイハウンドは右側だ。チケットカウンター行き、日本で購入したクーポンを差出し、
「カナダパスに替えて下さい。」と係員に伝えると、
「いつから使うんだ?」というので、ちょっと考え込み、
「今日からです。」と答えた。本当は明日から使用する予定であるが、仮に宿がとれなければ、否が応でもその日に出発せざる得ない状況を想定してそう答えてしまった。
「ピンチャークリーク行きのバスはありますか?」と訪ねると、係員は黙って大きくうなずいた。
「21番ゲート。18:00発だ。」というので、驚いてしまった、何故驚いたのかというと、出発する前、インターネットでグレイハウンドのHPで大まかな時刻表と移動時間を調べておいたのだが、HPからは出発地と行き先をインプットすれば瞬時にして調べることが可能だ。その際バンクーバー〜ピンチャークリークの表示はなかったので、カリガリー経由で入ることを考えていたからだ。コンピューターから打ち出されたパスが出来上がると、係員は、
「ここにサインして。バスに乗る際はこのパスを運転手に提示して行き先を告げて下さい」と説明をしてくれた。
気が変わった。バンクーバーで一泊しようと思ったが、直行便があることを聞いて乗ることに決めた。確かに風邪の具合もよくはなってはいない。ひどくなる一方だ。ただ直行便があることを聞いてとても嬉しくなってきたのだ。どうして嬉しくなるかというと、下の表を見て欲しい。
fromバンクーバー toカルガリー
発車時刻 到着時刻
0:30 18:45
6:45 22:45
☆13:45 5:25
14:00 5:35
18:45 10:30
fromカルガリー toピンチャークリーク
発車時刻 到着時刻
☆6:30 10:05
22:10 1:20
日本で調べた時刻表であるが、カルガリー経由で行くには☆をつけた時刻が乗り換えタイミング到着時刻共に望ましいのであるが、バスは時間に対して不安定要素が大きい。仮に、バスの到着が遅れてカルガリー発6.:30に乗れなければ、翌日まで待たなければならない。22:10発もあるが、夜中の1:20に着くなんていうのは、いくらなんでも無謀だ。着いた所で野宿かなにかしなければならなくなる。外国の土地でキャンプ場以外で野宿をするほどそんな勇気は持ち合わせてはいない。
カリガリーで泊まるという方法もあるが、カルガリーはこの時期、年に1度の「スタンピートフェスティバル」が行われている。簡単にいうとロデオとかの競技を行うカウボーイのお祭りだ。カナダ中のカウボーイやはたまたアメリカ中のカウボーイ達がこのフェスティバルを見にカルガリーに集中してくる。となれば宿の手配も当然困難が予想されてくるのだ。
そんな不安要素を抱えていたので、直行便があることは悩みが一気に解消された気がして嬉しくなってくるのである。気分で旅の予定をころころ変えてしまうのでとてもいいかげんなのである。でもこんな事が出来るのは「一人旅」ならではの醍醐味だ。予定は決まった。あとはバスに乗るだけだ。安心すると同時に小腹が空いてきたので、ちょっと早いが夕飯をとることにした。駅構内に「マクドナルド」があるので、そこへ向かう。ビッグマックセットを注文しバスターミナルへ向かった。ターミナルのベンチに腰掛けながら、目の前を通り過ぎる人たちを眺めつつビッグマックをほおばっていた。いまさら始まったわけではないが、ポテトの量と飲み物の量は相変わらずものすごい量だ。飽きるくらいの量といっていい。ふと目の前を通り過ぎる人達を眺めていると、ある共通な物を持ち歩いてる事に気づいた。それは「大きな枕」である。これを持ち歩いているのは女性のみ。バックパッカーの人たちもそうだ。大きなザックを背中に背負って、片手で大事そうに抱えながら歩いているのだ。過去グレイハウンドには、10年前、8年前と2回ほど乗ったがそんな光景を見るのは初めてであった。
「大きな枕を持って何に使うのだろうか?自分の枕でないと寝れない人たちなのだろうか?」といろいろと考え込んでしまった。出発まで1時間程時間があるので、汗だくのTシャツを着替えることにした。バスに乗って汗臭いTシャツを着てては周りの人にも迷惑だし、風邪も引いてるから汗で濡れたTシャツを着ててはますます症状が悪くなってしまう。デイパックの中にはすぐに取り出せるものを中心に入れてある。着替えも一式入れてあるので取り出すには楽であった。トイレに向かう際、くそ重いザックを担ぐとまた汗だくになるので、少々不安ではあったがベンチに置いておくことにした。貴重品だけは当然身に付けていく。長袖のシャツの上にTシャツをはおる事とした。ついでに少量のコロンもつけておいた。グレイハウンドのエアコンの寒さははんぱではない。夏でも寒い位ガンガン効いている。この辺はガイドブックにも記載されているし、8年前乗ったときに経験してるからだ。着替えが終わり、再び荷物を置いてあるベンチに戻ると、空港からこの駅まで連れてってもらったおばちゃんがいるではないか。俺が驚いて「おお〜」というと、おばちゃんも、
「あら、どうしたの?」と聞いてくる。
「ピンチャークリーク行きのバスがあるのを聞いたので、今日出発することにしました。日本でインタネットで調べたときは、カルガリー経由しかないと思ってたんだけど。」
「どのバスに乗るの?」というので、
「21番ゲートの18:00発のバスです。」といったら、
「あら、私も同じバスよ。」
「おばちゃんは、どこまで行くの?」
「ウエストバンクという所。」
「ん?ウエストバンクーバー?」
「違う違う、ウエストバンク。はい、言ってみなさい」
「ウエストバンク。」
「よろしい。」
そんな感じで他愛もない話をしてると、21番ゲートのところにぼちぼちと人が並びはじめた。というより、荷物を置き始めたのだ。俺も出来れば前の方に座りたいので、くそ重いザックを置きにいった。やがて、ゲートの前に1台のバスが入庫してきた。行き先表示板には「LETHBRIDGE」と書かれている。バスが入庫してくると同時に続々と人が集まってきたので俺も荷物の置いてあるところに並ぶ事とした。
ゲートのカウンターで、チケットの提示をしなければならない。私はバスパスなので運転手にまず、
「このバスはピンチャークリークに行きますか?」と尋ねると、運転手は、
「そうだ。そこにいる女の子に行き先を告げて、手続きをとってくれ。」というので「何の手続きをするのだろう?」と思いながら、中国系の女性にパスを見せながら、行き先をもう一度告げることにした。
「ピンチャークリーク。」
「は?」と女の子がいう。
「ピンチャークリーク」
「は?」とまたいうので、俺の発音がよくないのかと思い、
「ピンチャアクルィーク」といっても通じない。チケットカウンターとかでは、一発で通じたので、「姉ちゃん、場所知らないの?」と日本語でブツブツいいながら、最終手段のアルファベット読みで
「P.I.N.C.H.E.R….」と少々語気を荒くして伝えると、ここまで連れてきてもらった例のおばちゃんがそんな怒ってる俺の様子をみて、すかさずフォローを入れてくれた。女の子のスタッフに向かって、
「この人はレスブリッジの手前の……」と後はよく聞き取れなかったが、私の行き先を説明してくれている。女の子もようやく理解してくれて、パスのNOを紙にメモッて行き先も書いている。最後に、
「では、このナンバーの下に名前を記入して。」というので、
「日本語?それとも英語で?」と尋ねると
「どっちでもいいよ。」と言って来る、例のおばちゃんも「あなたのサインをここに書くのよ!」と言ってくれたので、「そうかサインか〜。このお姉ちゃんNAMEというから、ややこしい。SIGNATUREといってくれればわかるうだがな?」と再び日本語でぶつぶつとつぶやいてしまった。
サインを書き終え、例のおばちゃんには、
「すまない。ありがとう。」とニコニコしながら礼をいった。本当に空港から世話になりっぱなしであった。
ようやくバスに乗り込み、後は出発を待つのみだ。ここから約20時間かけてのバスの旅。いったいどうなることやら…。
(つづく…) |