*7月7日 シアトル(曇り時々雨)*
苦痛だった約9時間の空の旅を終え、朝の8:30頃にNW008便はアメリカのシアトルに到着した。寝不足と疲労でよろよろと飛行機を降り、まず向かった所は、入国審査のゲートである。訂正しまくりで見栄えが汚くなった出入国カード(I-94W)と税関申告書をパスポートにはさんで、列に並ぶ事にした。20分くらい待ち、ようやく自分の番が廻って来たので、
「おはようございます」といって、バスポートを入国係官に提示をする。その後はお決まりの内容だ。
「何しにアメリカに?」
「トランスファーです。カナダに行く為、アメリカはただ通過するだけです。」
「カナダには何をしに?」
「観光です」
「どのくらい?」
「1ヶ月です。」
「アメリカでの滞在期間は?」
この質問にちょっと戸惑ってしまった。今回はシアトル経由バンクーバーなので、アメリカには立ち寄ることにはなるが、その日に飛行機で移動なので、実際には数時間程度しか滞在しない。面倒くさいので、行きと帰りに立ち寄る形になるから、
「2日間です。」と適当に答えてしまった。
「どこのホテルに滞在するの?」
アメリカの出入国カードには、滞在先の名前と住所を書く欄がある、今回はそこに「Transfer」と記載してある。ここも面倒くさいから質問に対して、
「ユースホステルに泊まるつもりです。」と答えてしまった。すると、
「OK..良い旅を」といわれ、バスポートに「バン」とスタンプを押し、出入国カードの半券をパスポートにホチキスでとめて、手渡された。訂正だらけの汚い申告書については何も問われなくて安心した。
「ありがとう」といって入国ゲートを無事通過できた。
次に向かうのは、荷物の受け渡し場所だ。幾つかの回転しているローラーがあるが、自分の乗った便名が表示されている所でぼーっと待ってると、5分位であのくそ重いバックパックが流れてくる。
「よいしょ」と肩に担いで歩いていくと、再び荷物検査だ。これから、バンクーバー
行きの飛行機に乗るので仕方がない。荷物をX線検査のベルトコンベアに乗せ、サイフ、時計、ウエストバッグ、ポケットの中のタバコやライター類全てをプラスチックケースの中に入れて、いざ金属探知機のゲートへ。成田では、ブザーが鳴らなかったので、「楽勝、楽勝」と思いきや、くぐり抜けた瞬間アラ-ムがなるではないか。
「何?まじ?ポケットの中はもう何もないぞ。」と思ってると、黒人の係員が、「こっちにこいと」手招きをする。係員の手には警棒状の金属探知機がある。
「足を開いて、両手を肩ぐらいの高さで広げて」とジェスチャーを交えながら指示するので、素直に従うことにした。「大」という一文字形になった俺の体周辺をなぞる様に金属探知機を移動させていく。腰の周辺にその棒が来たときまたしてもアラームがなる。咄嗟に「ベルトの金具だ」と思ったので、Tシャツをめくり上げ、ベルトの金具を指をさすと、
「OK」と言って、再びなぞるような作業を始める。今度は、
「くつのかかとを見せるように、足を上げろ」というので、上げると、またアラーム
がなるではないか。係員は、
「くつも脱いで。」と言ってくる。
「まじ?脱ぐの?」というと、
「そうだ。」と言う。しぶしぶ脱いで片方を渡すと、
「全部だ。」というので、全部脱いで係員に渡すと彼はもう一度X線検査に俺の靴を持って行って再検査をしに行った。
その間、俺の荷物がX線検査を終了してたので取りに行こうとすると、女性の係員が
「荷物を向うに持って行って再検査して」と指示してくる。
「まだ、検査するの。しかし、ものすごい厳しいチェックだな~」と思いながら指示
にしたがった所に行くと、何となく元ドゥービー・ブラザーズにいたマイケル・マクドナルドに似ている係員が、検査で辟易している俺の雰囲気を察したのかわからないが、ニコニコしながら、
「すまんな。協力に感謝する。おッ、なかなかいいTシャツだな。俺もそんなデザイ
ンのTシャツは好きだよ。」とお世辞をまぜていってくる。2年前にナイアガラに行った時、買った、狼のデザインのTシャツを着ていたのだ。カナダのお土産屋に行くと必ず、狼、クマ、ハクトウワシのデザインに胸元にその都市の名前がプリントされてるTシャツは必ずと言っていいほど売っているポピュラーなデザインだ。
成田の検査と違ってここでは、バックパック、デイバック、ウエストバックと全ての荷物が検査対象となる。
俺が荷物類を開けようとすると、係員は、
「だめだめ、触らないで、私が検査するから。」と行ってくる。カギがついてる所だけ、開けるために唯一荷物に触ることができる。係員は人間を指圧するように荷物を押し続け、固い物を見つけると、
「これはなんだ?」と尋ね、そして、それを再び「すまんな。もう一度検査だ。」といってX線検査に荷物を運んでいく。そして、問題ないと「OKだ。協力に感謝する。」とニコニコしながら戻ってくる。
周りをみると、俺と同じように靴を脱がされ、検査待ちをしてる人が何人もいる。みんな疲れた顔をしてぼーっと検査が終わるまでたそがれている状態だ。
ふと、自分のデイパックに銀色に光るものがあることに気づいた。俺のデイパックには500mlのペットボトルを差し込めるネットポケットがあるのだが、その中に銀色に光る物体が入っている。ネット状だから肉眼ではっきりとわかる。
「げげっ、しまった。折りたたみのハサミだ。」釣りに行くときにラインを切る際利用していたハサミである。
「あ~、どうしよう。こんな厳戒な検査の中で見つかったら、怒られるな。取調室かなんかに連れて行かれて、ねほりはほり聞かれるかも、へたすると強制送還なんてないだろうな。」と悪いことばかり考えてしまった。
係員は一生懸命荷物の中身ばかりをチェックしている。いつばれるかハラハラドキドキしてたが、係員がようやく、
「終了だ。協力に感謝する。持って行っていいよ。」と言われたのでほっとし、テーブルの上にぶちまけられた自分の荷物を整理しながら、そのハサミをそっとポケットの中に突っ込んだ。未だに裸足だったことに気づき、検査の終了した靴を履いて、そそくさとその場を後にした。なんだかんだで30分くらい検査に時間を取られたことに気づく。
荷物検査場所をでると、航空会社のスタッフが数人待機していて乗り継ぎのゲートの案内をしている。日本語を話せるスタッフがいたので、チケットを提示すると、「AS567便はC12ゲートだから、このエスカレーターを登って直進すればシャトルバスがあるからそれに乗ってください。」と言われ指示通り向かうことにした。
途中であのくそ重い荷物を再度チェックインする。
空港内のシャトルバスに乗り込み、C12のゲート口に向かう。シャトルバス内は何故か日本人ばかり、アラスカへ釣りをしにいくのだろうか?バズーカ砲みないなロッドケースを抱えた日本人が目立つ。案の定、彼らの会話も釣りの話に集中している。
たいてい、アングラーが集まるともう釣りの話しかない。特にルアーやフライ系のアングラーの会話はカタカナ系の専門用語が飛び交い、釣りをしない人にとっては何を言っているのか理解不能の会話になってくるのだ。例をあげてみよう、
「あのルアーをキャストするには、ロッドはXXフィートの長さでファーストテーパー系がいいよ。ラインは8lb位がベスト。キャストした後は、すぐラインスラッグを巻き取り、ストロングなジャーキングを行うといい。ポイントはインレット付近がベストだよ。」といった会話が繰り広げられる。
彼らはいかにも釣りをしたくてうずうずしてるようだ。俺も釣りをやるので、彼らの気持ちが非常によくわかる。アングラーにとって、釣りに行く途中というのは、釣りをしている時と同じくらいわくわくするものである。頭の中ではきっと、釣りをする際のシュミレーションを行っていることであろう。
シャトルバスを降り、再び空港のターミナル内に入る。次のバンクーバー行きの飛行機は11:54発AS0597便。アラスカ航空の飛行機だ。飛行機の尾翼にはエスキモーの顔がトレードマークとなっている。ノースウエストと提携している為、この飛行機になったのだろう。Cコーナー、Dコーナーはアラスカ航空のカウンターが集中している。指定ゲートのC12に向かう。
モニターでAS0597便の出発状況を確認する。「ON TIME」と書かれてあるから今の所、定刻通りで出発の予定だが、ゲートNOが変更されてることに気づいた。C12ではなくD3と表示されているではないか。心の中で、
「いちいち変更するんじゃねー。」とつぶやきながら、最寄のカウンターのスタッフにD3ゲートの場所を尋ねる。
「そこを右に曲がって、ず~っと向うだ。」というので、
「シャトルバスに乗っていくのか?」と尋ねると、
「いや、歩いてずっと向うだ。Dという表示板があるから、そこに行きなさい。」といわれたので指示通り歩いていった。
空港内は何故か蒸し暑い。ちょっと歩くだけで汗をかいてしまう。風邪が完治せず、旅にでてしまったので、熱が出てきた可能性がある。体温計はくそ重いザックに入れたままなので手元にはない。体温を計るのを諦めて、D3ゲートまでとぼとぼと歩いていった。
D3ゲートに到着し、カウンター近くの椅子に座り込む。ほっとしたのか、なんだか小腹が空いてきたので、何か食うことにした。出発までまだ2時間近くあるので余裕だ。どうせ、空港内なんて退屈すぎる場所だ。何かを食べて時間をつぶすしかない。
ちょうど近くに「BURGER KING」の店があったので久々に「WHOOPER」が食いたくなってきた。「WHOOPER」とは、マックでいうビッグマックみたいなでかいバーガーだ。10年前アメリカを旅したとき、食って以来食べてない。初めてこれを食べたときは、大きさに感動してしまったのだ。ちなみにこの「WHOOPER」の発音の仕方がよくわからない。初めて注文をした時、「フーパー」と発音したら全然通じなかったので、「W.H.0.0….」とアルファベット読みして注文せざるを得なかった。店員もようやくわかったらしく「ウワアーパァ」と言ってきたので、なるほどそう発音するのかと頭に刻み、後日別の店で「ウワアーパァ」といったら全く通じず、再びアルファベット読みで注文をしてしまったのだ。なのでそんないきさつがあるので、この店で注文する時は緊張してしまうのだ。(帰国後、ちょいと、このWHOOPERを調べてみた。日本にも関東圏にBURGER KINGの店があったらしく、日本では「ワッパー」というタイトルであった。)
頭の中で「WHOOPER」をどんな発音をすべきかシュミレーションをしながら、店に向かって歩いていく。いざカウンターの前にいき「WHOOPER」を注文すると、中国系の店員のおばちゃんが、
「ごめんなさい、この時間はモーニングセットだけなの。」というではないか、時計をみるとまだ9:50分である。10:00からというのであと10分またなければならないのだ。
「マジ?あ~。」といって、俺はヘナヘナとカウンター前でしゃがみこんでしまった。
「WHOOPER」を食べる夢はもろくも崩れてしまった…。店員はそんな姿をみてゲラゲラ笑いながら、
「あらら、大丈夫?どうするの?」というので、俺は気を取り直してしゃきっと立ち上がり、
「それじゃあ、マフィンとハッシュドポテトのセットを下さい。」とオーダーをした。
店員は俺が日本人とわかったのか、
「ノミモノ?」と日本語で言ってきたので、オレンジジュースを頼んだ。
店内でぼーっとしながら、サイコロみたいな形をしたハッシュドポテトを一粒一粒ゆっくりと食った。指はケチャップでベトベトだ。次の飛行機まで時間はまだまだあるから、ゆっくりと食って時間をかせがなければならない。
薬の効果が切れてきたのか咳がまたひどくなってきた。食後にコンタック咳止めを飲む。12時間は持ってくれるだろう。

WHOOPER食いたかったな...
バーガーキングで食事を済ませた後、なんだかタバコが吸いたくなってきた。咳はひどくなって、本来は控えるべきだが薬を飲むと咳が収まるのでどうしても吸いたくなってくる。全く体によろしくないことを俺はやってるのだ。
当然、空港内は全面禁煙ということは十分認識している。成田空港みたいに、喫煙場所みたいなところがないか、捜しまわったが結局なかったので諦めることにした。
自販機でミネラルウォーターを買い、搭乗カウンターの近くの椅子にもたれながら、100万回くらい溜息をついたら、AS0597の出発時間が来たので飛行機に乗り込んだ。機内は満席。後1時間もすればバンクーバーだ。
離陸するとまもなく睡魔が襲い、爆睡してしまった。着陸の衝撃で目が覚めたら、そこはもうバンクーバーであった。
やはり飛行機は寝るに限ると思った。
(つづく…)
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